挑戦2
出ようと思えばすぐ出られる清潔な牢の鍵が開けられた瞬間、炎が飛んだ。
直ぐに結界を張って防いだリュカの前に、ルーが翔んで来て拳を振り上げた。
Γつっ!!」
ルーに素手で顔面を殴り付けられたリュカが、勢いで倒れた。
唇が切れて血が垂れるのを手で拭い、リュカはゆっくりと見上げる。
Γ……本来なら、この程度で許すわけがない。貴様はミヤコを傷つけたんだから…」
Γああ、力をやはり返してもらったのですね。」
Γ違う。」
訝しむリュカから踵を返し、ルーが私の傍に戻って来た。
Γミヤコ、手を下ろせ。」
Γは…」
同じように拳を振り上げて固まっていた私は、ルーの声で我に返った。案内されて、私達はリュカのいる牢にやって来た。そしてリュカの平然とした表情を見た瞬間、これは一発殴らなければと怒りが沸き上がったのだ。
ルーの方が早かったが…
私の拳をルーの手が包み、ゆっくりと下ろされる。
Γお前が殴って、あんな奴のためにそれ以上傷つくことはない。」
泣きそうになるのを堪えるために、ルーの胸に顔を引っ付けると背中を撫でてくれた。
それから私の頭を片手で抱いて、ルーはリュカを見下ろした。
Γ俺とミヤコは、力と命を半分ずつ分け合った。貴様の予知は、やはりたいしたことがない。」
Γそんなことができるのですか?」
興味深げなリュカに、なんだか腹立つ。
隅で傍観していたローレンが、護衛の兵と共に私達の近くに来た。
Γ取り敢えずリュカ、恩赦により牢から出ることを許す。」
Γは?恩赦?」
分からないといった表情のリュカに、ローレンがにまにまと笑う。
Γだってめでたいし、めっちゃ珍しいことだよ。魔法使いが魔法使いと結婚だなんて稀だよ?」
Γ貴様の予知は、ここまで見据えていたか?所詮俺の未来など、他人の貴様がどうこうできるものではない。ざまあないな!」
得意気にルーが、見せつけるように私を抱き締める。さすがに驚いたのか、リュカは少々目を見開いている。
なぜ私達のことで、敵の立場だったリュカが解放されるのかは、私には甚だ不服だったが仕方ない。これも今後の人生設計のためだ。
Γそれで、どういうことです?まさか私を嘲るためだけに来たのですか?それとも、今度こそ私を殺すために?」
Γああ、そ…」
Γ違うわ。」
ルーの言葉に被せて言うと、私は立ち上がったリュカの前に立った。
Γ私とルーは、ルルカとグラディアのために働く。だから今後のために、あなたにも認めてもらう。」
Γどういうことです?」
ローレンが頷くと、控えていた侍従がリュカに書類を渡す。
素早く目を通したリュカは、やがて冷笑を浮かべた。
Γ……ルシウスがミヤコ、あなたと共に専属魔法使いとなると?」
私は睨むようにして、リュカに無言で頷いてみせた。一筋縄ではいかないのはわかっている。
けれど私は、一番の目的のために絶対に諦めない気持ちがある。経済的なことじゃない、本当に私が望むことはここでなら叶うはず。




