ルルカにて3
馬車の窓から見える新緑が眩しい。
隣国グラディアに向かう道中。半日馬車に揺られて少しお尻が痛い。
森の中、清涼な空気が気持ちいい。
「デートって、そういうこと。」
グラディアへの表敬訪問。ローレンは来年、その国の王女と結婚することになっている。その為、折を見ては顔を見せに行くらしい。使者を立てる訳ではない。ローレン自ら毎回赴くのは、小国ルルカはグラディアよりも目下にあたること。
また、ローレンが跡継ぎの男子のいないグラディアに入婿として迎えられることが理由だ。
グラディア王に気に入られて、いずれ両国の王に就くローレンは、かなり気を配っている。
それに私はデートならぬ、同行させられることになった。
私を未来の魔法使いだと御披露目する気らしい。
リュカの予知が絶対的に信じられているからだろう。
私が魔法使いになるのを拒否するとかは、論外みたいだ。御披露目自体は、従うしかない。
私は、ルルカでただ飯喰らいの身。御披露目なんて、恥ずかしいし緊張するけれど我慢するしかない。
私の馬車は最後尾に近い。ローレンやリュカの馬車が遠く前の方を進むのは、窓から覗けば見えるだろう。
一人だけの馬車。暇を持て甘し、窓を開けて外を覗いた。左右と後ろに馬に乗った護衛の兵士。
「こんにちは。お仕事ご苦労様です。」
馬車の右手の兵士に話しかけてみた。私のことは皆知っていて、声を掛けられて驚いたように私を見る。まだ若そうだ。
「グラディアには、あとどのくらいで着くんですか?」
私の問いに、彼が口を開こうとして、肩に矢を受けて馬上から落ちた。
え?!
タンッ!
馬車の窓の上に矢が刺さった。
「襲撃…っ!」
叫ぼうとした兵士の胸に矢が突き刺さる。
あっという間の出来事だった。訓練された手練れだろうか。
白くなった思考で、身を守らなきゃと咄嗟に馬車の中で、身を屈ませていた。
小さな悲鳴が聞こえたところで、馬車が止まった。
バンッ
扉が外から開けられ、中に布で顔を隠した男が入ってきた。私の手を乱暴に引っ張り馬車からひきずりだす。
雨上がりで湿り気のある地面に転がされ、私は恐怖よりも驚きを感じた。
私の馬車だけが狙われていた。
前を行く列は、異変にまだ気付いていないらしく
私を引き離して進んで行く。
「あ…!っ」
声を上げようとしたら、被っていたフードを外され、私の髪を乱暴に掴んできた。
黒髪を確認している。
最初から私だけ狙っていたんだ。
髪を掴んだ男が、素早く剣を私の喉に沿わせた。
「うっ、…う」
殺される!なんて世界!
予知なんて!
ぎゅっと目を瞑る。
ザアア
するとそこへ一陣の風が吹いた。