新しい朝3
結婚して気になることがある。
金銭面の話だ。
……おかしい。いや、だいぶ前から不思議に思っていた。だって、ル―ずっとこの島にいたのだから働いていないはず。
夕御飯のパスタを茹でながら、ちらっと後ろを見る。私の後ろに立ってレシピをメモるル―。まるで何の心配もないような涼しい顔をしている。
昨日と今日の午後、私達は買い物に出掛けた。目的は、主に私の服や日用雑貨ついでに食料品だったが、ル―は特に値段を見ずにお金を出した。そればかりか、いろいろ必要以上に買おうとしていた。あまり拒むと、あとが怖いのでおもちゃみたいな可愛らしい指輪を買ってもらった。
実はこの世界では、結婚指輪は無い。国によって様々だが、主に婚姻届を役所に出せば、結婚は成立するのは同じだ。
薬指にある指輪を見て、頬が緩む。あくまで人間の結婚の話だから、私にはこれで充分だった。
買い物の帰りにニッサに寄ったら、私達の荷物を領主は大事に保管してくれていた。お金もちゃんとあって安心した。私達が本当の夫婦になったと聞いて、領主は喜んでくれた。娘は不在だったけれど知ったらどんな顔をしてくれるかなあ。
他の町で買い物した時は、魔法で髪色を変えていた私達は、ニッサで黒髪に戻して少しだけ町中を歩いた。辛い記憶があるから、今こうしていることで優しい記憶になればと思ったから。
人々が遠巻きに見守る中で、私はルーに言った。
Γねえ、ルー。いつか…この姿でどこに行っても堂々と歩けたらいいね。」
Γまあな。」
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Γこれは何て名前だ?」
Γカルボナーラ」
異世界の見慣れない食べ物を作る私に、興味深くルーは後ろで覗き込みながら質問してくる。さすが料理歴50年。
よし、ついでに聞いてみよう。
Γルー、お金どうしてるの?」
Γ………」
Γまさかと思うけれど…その魔法使いの力でどうこうしてたとかないよね?」
Γ…さあ」
口許に薄く笑みを湛えるルーを、疑いの目で見る。だがそれ以上何も言わないので、再び鍋のソースをかき混ぜる。
Γ…………」
一つに緩く纏めた髪からうなじの辺りに、ルーの視線を感じる。怪しい。
Γどっかの国から盗んだりしてないよね?」
Γ……勘の良い」
Γえ?」
私はソースを指で掬って味見をしながら、振り返った。舌でちろりと指を舐めて味を確かめて、ルーを見つめた。
私を見るルーの喉が上下に動いたと思ったら、気がついたら押し倒されていた。
Γえっ、ちょっ!」
Γ誘うお前が悪い。」
Γん?ルー、ごまかして、あっ」
するっと太腿を撫でられて、かあっと体が熱くなる。
Γや、ここ台所!」
Γだから?」
Γも、火を…」
Γ火はついてる」
Γえ、何言って、ちがっ、鍋の火!」
覆い被さるルーの肩を押しながら言うと、カチッと音がして火が消えた。
Γはい、消えた。」
Γうう、もう…」
からかわれてるみたい。ちゅっと頬にキスされて、弱い首筋を舐められてしまう。
人が質問してるのに、大事なことなのに、ご飯作ってる途中なのに、夫婦なんだから話し合いたいのに…な、流されたりしない。
ムカッとした私は必殺技を繰り出した。
Γルシウス、拘束!」
Γあっ…お、お前…!」