あなたと5
地下牢から解放された話を聞いた。
Γそう、ローレン…」
涙が引いてきた私は、ローレンがルーを助けたことには、さして驚かなかった。今思えば、彼は最初からリュカの予知に疑いを持っていたし、私に期待を持っていた。それは全てがあの少年の善意からではないことは知っていた。
ローレンは、リュカとは違う理想を掲げていた。この時になって、はっきりとそれが見えてきた。
ローレンは、魔法使いを全員手に入れたい。
いずれ世界の覇権を握るため、私達を利用したいはずだ。
Γ…………」
Γ何だ?」
Γううん。」
これからここで生きるためにも、いろんなことに決着を付けなければならないだろう。それは少しづつルーと実行していけばいい。
Γ何だか嫌な予感がする。」
ぼそりと呟いたけれど、ルーはそれ以上追及するのは辞めたらしい。
その後の旅の話を続けて、私は熊に襲われた話に驚いた。
Γルー、助かって良かった。」
Γ…あの時、死ぬのは嫌だと感じた。」
俯いたルーは、正直に話してくれた。
Γ人間は脆い。頭ではわかっていたが、自分がそれを感じて初めて気付いたこともあった。ミヤコ、お前の方がよっぽど強い心を持っている。」
Γえ?」
Γ死にかけても、お前は常に自分のことや死への恐怖でもなく、他者を思っていた。それは強いからだ。臆病なんかじゃない。」
私を見ていたルーが、窓に視線を移した。
Γ最高の魔法使いだと言われても、俺はその力に胡座をかいて安全に生きていただけだ。俺は人間になって、ようやくそれに気付いたし、自分の弱さも知り得た。」
面白い経験だった、そう苦笑するルーが、私にはよっぽど強い人だと思えた。誇り高い彼が自分の弱さを認めたのだ。
Γ自分の弱さを認めることは、強いことだよ。」
Γそうか?」
Γそうだよ。」
お互いを強いと思うなら、二人でいたら怖いこともないんじゃないだろうか。
ルーと私は、話終えるとそれっきり黙って雪の降り積もるのを眺めていた。こうして二人でいることが、とても心地よかった。
ずっとずっとこうしていたいと思った。
私は去り際に、家族に誓ったことがある。必ずこちらの世界で幸せになると。
私の幸せ。
それはルーがいないと叶わない。
Γ……ルー」
Γ何だ?」
ルーにもたれていた体を起こしたら、毛布がずれて自分の服が新しいものに着替えさせられているのを知った。手足も綺麗に清められていて、少しばかり次の言葉を出せなかった。
ルーもそれを見て、私が頬を赤くしたのはそのせいだろうと思ったようだ。
私が何を言うだろうと、表情を伺っている。
Γあの、ルー…」
Γ着替えさせたことなら…」
Γううん。」
緊張しながら何とか微笑んだ。
Γずっと一緒にいられるように、私…ルーのお嫁さんになりたいな。」
肩に触れていたルーの手が、ぴくりと動いて滑り落ちた。