あなたと4
変な夢を見た。
一面の雪の中、漆黒の魔王に拐われる夢。気を失った私は身を委ねるしかなかった。
ん?あ、本当のことだったかな。
意識が上昇して目を開けた。直ぐ側に窓があって、真綿のようなふわふわした雪が降り積もる景色が見えた。空も白くて、木々も大地も雪に埋もれて銀世界だった。半年以上前に見た時は、若葉眩しい初夏の景色だったのに。
この島も雪が積もるんだ。
外は寒いのに、私は寒くない。暖かくて心地よい。そのことに気付いて、私は嬉しくて微笑んでいた。
Γ雪、積もってるね。」
Γ起きたのか?」
いつからそうしていたのだろう。毛布にくるんだ私を抱き締めていたルーは、確かめるように私の顔を撫でて見下ろした。
Γ私が寝てどのくらい経ったの?」
Γ一日半ぐらいか。今は夕方だ。お腹空いたか?」
Γううん、大丈夫。」
本当はお腹が空いていたけれど、今はまだこのままでいたかった。ベッドの上で壁に枕を当てて、上半身を起こした状態で背を預けたルーが、立てた膝の間に私を抱えている。
しんしんと積もる雪。ルーの呼吸、鼓動。
静けさが落ち着く。
私はぽつりぽつりと今までのことをルーに話した。
彼に力をもらったから助かったこと。洗脳を解いた時のこと。魔法を練習して、この世界に帰ることを決意したこと。
Γ……後悔はないか?」
黙って私の話を最後まで聞いて、ルーが言った。
後悔…
目に浮かぶのは、家族のこと。私がこの世界に戻る赦しを請うた時、泣きながら、思い留まってと行かないでと叫んだ両親。
親不孝な私。行方不明の私を必死で捜し続けた家族を裏切ったようなものだ。
それでも、私はどうしてもルーの傍を選んでしまった。何度も謝って、頭を下げて、赦しを請い、
涙を堪えて、それでも…
Γ私あの時…怪我をして死にかけて、このままルーと別れるんだと思ったら辛くて…どうして一緒にいようって言えなかったのか、凄く後悔したの。私臆病で、ルーなんかより全然覚悟が足りなくて…」
ルーの胸に額を押し付けて、絞り出すように言う。そんな私の髪を静かにルーの指が漉いてくれた。
Γ私が後悔してるのは、家族と別れたことや向こうの世界を捨てたことじゃない。あなたと一緒にいることから逃げた自分に一番後悔してる。人間だからとか、寿命が違うからとか、そんなことばかりに囚われて、今のあなたを見なかった!」
今更図々しいことを言っているのはわかっていた。ルーを傷つけて拒んだ。
Γだが、お前は結局俺を選んだ。そうだろう?」
軽い口調に見上げれば、ルーは満足そうに笑っていた。私を見つめる彼は、ただただ嬉しそうで、そんな顔を見たら、涙が堰を切ったように溢れた。
Γ本当によく泣く。」
Γふえっ、ごめっ…」
どうしてこんなに優しいんだろう。あの畏れられた魔法使いは、どこに行ったのか。
誰にも愛されなかったルーは、誰かをこんなにも愛せる心の持ち主だ。
今度は、ルーが今までのことを語り出した。
私はしゃっくり上げながら、その痛々しい話に聞き入った。
話す間にも、ルーは私の肩を両腕で包むようにして、とても大事そうに抱き締めてくれていた。
話が長くなりそうで、ここで一旦分けます。




