ルルカにて2
この国で私は、言語を覚えた。ありがたいことに世界は一つの共通言語を有していた。
それを三週間でマスターした。リュカの教え方が良かったのだ。彼は、ルーと同じように私の心を読める。これだという単語や文を私が思い浮かべると、それをそのままこちらの言語に変換して教えてくれた。
私は、ルーと話す時のように、リュカにこめかみに触れてもらおうとした。
「ああ、触れなくても気持ちは読めます。」
「…え?」
リュカが言うには、魔法使いは気持ちを読もうとする相手に近づくだけで十分なのだ。
その相手が心の浅い部分で思ったことは、難なく伝わるらしい。
だったら…、ルーがずっと私に触れて会話していたのは何だったの?勿論私に話したい時は触れないと伝わらないが、彼は私の話を聞く時から既に触れていた。
こめかみや手に触れると、心の奥底の隠しておきたい気持ちまで全てを知ることができるという。
考えると、胸がぎゅっと苦しくて泣きそうになる。
ルーは、誰も信用していなかった。きっと私の心をありったけ覗いていなければ、私を信じられなかったに違いない。
「あの男は危険です。」
リュカは、冷たく言い放った。
私はこの国に来て知ったが、ルーはこの世界の大半の人から憎まれる存在だった。過去に酷いことをしたからだそうだが、詳しいことはまた追々とのことで教えてもらっていない。
危険?確かに躊躇なく船を焼き払う人だ。そこに人がいて、怪我をしたり、もしかしたら死ぬかもしれなかったのに。
でも、そんなに悪い人だとは思えない。彼が本当に酷い人なら、今私は息をしていなかったかも。
私に触れて、私の心を確かめたりしなかったはず。
今も静かに一人島で過ごしている彼のことを考える。彼はうっとうしがるだろうけれど、できることなら私は、ルーの家に上がり込んで一緒にご飯を食べたいと思っている。
私は憎んでいないと伝えて、彼を安心させてあげたい。独り善がりだろうけれど。
でも、それもできない。
開け放った窓から、爽やかな風が入り込む。
顔に纏う風に目を細めて、それを吸い込んだ。
ルーは私にもう心を開かないだろう。
私が彼を殺して、彼に成り変わる存在だから。
悲しい気持ちに、唇を噛んだ。
扉をノックする音がして、子どもが入ってきた。
「ミヤコー、おはよう。」
迷いなく私の側まで来ると、おもむろに私の髪を弄りだす。
「ローレン。おはよう。」
友人だからと敬語は禁止されている。
くすぐったくて肩に力が入る。
「もうすっかり言葉を覚えたね。」
感心したように、ローレンは言った。後ろに控えるようにリュカが見ている。
これなら、と二人で顔を見合せてから、ローレンは私を見上げる。
「ねえミヤコ、僕とデートしよう!」