指先に想いを5
Γな…?」
私のいきなりの拒絶にルーが停止した。その隙に彼から離れて立ち上がり、顔を手の甲でこする。
思った通り手の甲に血やら土やらがついてきて、私は自分が身体中薄汚れているのに恥じ入った。
Γわ、私、すごい汚れてて、こんな顔…見せられないから!」
ルーに背を向けたまま、両手で顔を隠す。
Γ………」
Γごめん、顔、洗ってく…!」
言い終わる前に肩を掴まれて、くるりと半回転させられてしまった。
Γ……」
Γう…」
目をぎゅっと瞑った私の頬を、ルーの両手が包むように触れて軽く上向かせた。
Γ……恥ずかし」
Γ綺麗だ。」
私の言葉を消すように、ルーが発した言葉に目を見張る。ルーの指が頬の汚れを拭いて、何度も輪郭をたどるように触れてくる。
目を開けた私を、楽しそうに覗きこむようにして、ルーはもう一度だけ言ってくれた。
Γ綺麗だ…」
目を細めるルーが、本当にそう思ってくれているのを感じて、私はゆっくりと同じように彼の顔に指を沿えた。
間近で見た彼は、大人の姿をしていた。
半世紀を生きていたにも関わらず、どこか幼さを残していた少年だったルー。
Γ……ルー、ルー」
それがどうだろう。二十歳ばかりの落ち着いた雰囲気の大人の顔つきになっている。整った目鼻立ちはそのままに、刺々しいガラスを纏うようだった彼は、どこか颯爽として……、血の通った人間らしい表情をしている。
Γ随分と、大人になったんだね。」
人間になって、苦労しただろう。痛々しい腕の傷を撫でるようにして、治癒の魔法をかける。
私の言葉に、不満げな表情をしたルーだったが、私がおずおずと背中に手を回そうとすると、迎えるように強く抱き締めてくれた。
そうして、私のむき出しの肩に唇をつけるようにしてじっとしている。
Γ……帰って来たんだな。」
Γうん」
Γ髪、伸びたな。」
Γうん」
また会えたら、まず何を言おう?考えていたのに、上手く言葉が出ない。
記憶を消したことを怒る?
救ってくれたことに礼を言う?
傷つけたことを謝る?
Γ……ルー、私!…」
私を抱き締めてくれる腕。肩から離れない唇。安らかに閉じたまぶた。
Γミヤコ」
宝物のように私を呼んで、嬉しそうに微笑むルーに、みるみる愛しさが溢れて…
しがみつくようにして、彼にぴったりと身を寄せて私は言った。
Γルー、私ずっと一緒にいるよ。もう一人になんてしないから。」
Γああ」
応えたルーの唇が、肩に音を立ててキスをした。