指先に想いを4
Γ…うぐっ」
Γお、おい、泣いてるのか?」
小さく漏らした嗚咽に、背後のルーが気づいた。
Γああ…、そうか。」
私の手を握ったことで、心を読まれたことを理解したのだろう、ルーは僅かに握っていた手の力を緩めた。だが、すぐに私の手を再び強く握ってきた。
Γルー?」
『いいか、俺が指示するからその通りに動け』
ルーが言葉ではなく、指先を通して思念を伝えてきた。その間にもリュカの肩の傷は治癒していき、手をかざして魔法を使う気配を見せた。
『翔べ!』
ルーの指示で翔ぶと、先程までいた場所に稲妻が落ちた。
『俺の結界を外せ。攻撃に集中しろ!』
Γでも、もし…」
戸惑う私の手を離し、ルーの指先が私の左側のこめかみを押さえた。そうすると、自然右に傾いた私の耳がルーの唇に当たる。
彼の呼吸を耳元で感じて、ドキドキしてしまう。
こんな時に…
Γ死ぬ気はない。だが、そうだな…もしそうなら死なば諸とも、だ。」
声に出して囁かれた言葉。それが私がこの世界に戻って来た理由が何であるかに、ルーが思い至っていることを知る。
Γうん、うん…」
勿論、私もルーも絶対に死ぬ気はない。だってようやく会えたんだ。
でも、一緒にいるからこそ思える。
死ぬ時は一緒だ。
Γ仲が良くて結構。」
リュカが苛立ちを露に私達を見る。
Γでは一緒に死になさい。」
『風を纏え!』
指示に従い、風の盾を作り光の玉を受け止める。
 
『炎を放て!奴の後ろに翔べ、そこから拘束!』
炎をかわしたリュカに、間髪入れずに拘束を放つ。動きを封じられたリュカが、すぐに拘束を解こうと力を込める。
『余地を与えるな!足に拘束!』
足を狙った拘束がきつくかかり、今度こそ倒れるリュカ。だが、倒れる前にこちらも拘束をかけられる。
Γあっ!」
前に倒れかけた私を、ルーが後ろに引っ張るように重心をかけたので、私はルーと一緒に地面に崩れるようにして座る形となった。
背後から私を、体で受け止めるようにしている彼に慌てて立ち上がろうと拘束を解こうとした。
『そのままでいい!それよりもう一度拘束だ!』
私の手首を掴みリュカにかざすと、ルーが指示を出す。
体を起こしかけたリュカが、また固まる。
次の行動を起こさせないように、素早くリュカを攻撃しないといけないと理解した私は、炎を放った。
確かめる前に、風の刃を繰り出し拘束と炎を立て続けに放つ。
Γあ、うっ」
呻くリュカの姿は、砂煙の中で見えない。
これでもかと両手で何度も攻撃を繰り返し、最後に両手を重ねて風と炎を合わせて放った。
Γはあ…はあ…」
『………』
いつの間にか、ルーは指示を出していなかった。私も息を上げて、砂煙で霞む視界が晴れるのを待つ。
風が吹いて、地面に手をついて体を起こそうとするリュカが見えた。長い髪を乱して、細かい傷をたくさん作っている。
Γ退け、リュカ」
落ち着いたルーの声が、私の頭上から降った。
勝敗はついた、はず。これ以上戦う理由はこちらにはない。
Γリュカ、あなたが死んだらローレンが悲しむ。もういいでしょう?」
私が疲れたように言うと、リュカは地面に目を向けたまま唇を噛みしめた。
そして、無言で何処かへ翔んで消えてしまった。
張り詰めていた糸が切れて、私はルーに背中を預けて力を抜いた。
風を吹かせたせいか、空を覆っていた雲が無くなり青空が見えていた。
Γ……ミヤコ、顔を見せてくれ。」
しばらく経ってから、ぽつりと言われた言葉に私は顔を赤くして答えた。
Γう…、ダメ。」
ほう、やっとたどり着いた感じ。
 




