指先に想いを
ぱたたっ、と左足の爪先まで血が垂れて空中に流れていく。既に靴は両足とも脱げて裸足だ。踵の無いサンダルは脱げやすく戦いにくかったために 自ら脱ぎ捨てた。
Γあ、うう…」
脛の辺りにリュカの魔法で貫通する怪我をしている。痛みに立ち止まる暇はない。リュカからの攻撃を結界で防ぎながら翔ぶ。
足からどくどくと溢れる血にぞわっとなる。
落ち着いて…
大丈夫、すぐに治る
怪我におののきそうになる自分を堪える。
Γ遅い」
極度の長い緊張に疲れて、僅かに気を抜いた。リュカはそこを逃さずに、稲妻が襲いかかる。
慌てて、風と炎を盾にして直撃を免れるが衝撃で後ろに跳ばされる。
砂の上に叩きつけられたところを、リュカの手が私の首を片手で締め上げる。
Γぐ…」
風を放つと、結界に阻まれる。リュカの締め上げる手を両手で掴み引き剥がそうともがく。首でもはねられたら、いくら魔法使いでも死ぬ。
尋常ではない魔法使いの腕の力に、必死で腕めがけて風と炎を繰り出す。結界を破り、リュカの腕に長い傷ができる。つうっと流れ出る血を見て、リュカが不機嫌そうな表情をした。
Γしぶとい」
拘束を放ったのを結界で阻止して、リュカが急に私の首に手をかけたまま引き摺るように翔んだ。
眼下に広がる灰色の海。
どこに翔ばされたのだろう?
考える余地なく、そのまま海に押し付けられるように落とされそうになり、風を何度もリュカに放つ。それを避けたり、跳ね返したりしてもつれるように回りながら落ちる。
Γあなたを殺すのは、手間がかかる。ならば…」
結界で海上を滑るように移動しながら、リュカが首から手を放した。水しぶきが、窓ガラスを伝うように結界を滑り落ちていく。
リュカの手から、稲妻と光の玉が合わさるように放たれて、お返しとばかりに炎と風を合わせて放つ。
熱風を翔ぶことで避けたリュカが、私の後ろに回り、いきなり髪を掴むと海岸に向かって投げ飛ばした。
Γきゃあああ!」
リュカのスピードに対応しきれず、砂浜に叩きつけられる。陥没した砂の中で、息ができないような痛みに呻いた。
Γ…っ、う、は」
容赦の無いリュカ。どうしたら…。
このままでは勝てないどころか、殺される。
Γ…コ」
Γ……うう」
Γミヤコ!」
名を呼ぶ声に、目を見開く。
よく通る深みのある声。あんなに聴きたいと思った声を忘れるわけない。
Γあ…」
身を起こして、手を砂について顔を上げる。
少し離れた所に、信じられないといった表情でルーが立っていた。
Γ…ルー…ルー…」
どうしてこんな小さい声しか出ないの
私の足は、どうして早く立ってくれないの
もどかしい気持ちでいたら、私の横をリュカが通り過ぎて行った。
Γあ…う」
その際に拘束をかけられて、私は砂に突っ伏した。
Γ人間を殺すほうが早い。ルシウス、やはり死んでください。」
声も出ないほどの強い拘束の魔法に、私は目だけでルーの姿を追った。
どくん、と心臓が皮膚を突き破るかのようで、呼吸が苦しい。
リュカが、ゆっくりとルーに歩み寄る。
Γ………」
ルーは私を見つめたまま、傍にいた女性を突き飛ばした。
リュカがすいっと手をルーにかざす。
Γ…っ、う!う!」
い、嫌!やめてやめて!!
逃げもしないルーは、目の前にいるリュカを素通りして、私に目を向けたまま嬉しそうに微笑んでいた。




