最高の魔法使いの帰還6(ルー視点)
砂浜に座り海を見ていた。曇った灰色の空に、同じ色の海が溶け合って、物寂しい光景だ。
この村に滞在して2週間が過ぎようとしている。
傷はまだ治りきってはいないが、腕の痛みは和らぎ、だいぶ動かすことができるようになってきた。
その間、ことあるごとにヤクトや娘、村人たちがここにずっといたらいいと勧めてくれた。人間になった自分を誰も嫌ったりしないと。
Γ……」
傷が治れば出て行く。その気持ちは最初から変わらない。彼らの厚意はありがたいし、ここなら安定した暮らしができるかもしれない。
だが…
Γ……無理だな。」
ミヤコを想い続け、この先もずっとその想いを糧に生きる自分には、無理だ。
ここで淡々と生き、時の過ぎ行く中でミヤコの記憶が薄らいでいくことが不安だ。
いつか、夢だったと。あの娘は幻だったと感じるのが嫌だ。それならば、一人がいい。
Γルシウス、様。」
女の声に、一瞬びくりとなる。ぱっと後ろを見れば、ヤクトの娘が心配そうな顔をして立っていた。
つい、いないはずのあいつかと期待してしまい、苦笑する。ほとほと自分に呆れる。
黙ったまま再び海に視線を向けると、水平線の彼方で何かが光った。気のせいかと思ったら、それは次第にこちらへ近付きつつあり、二つの光がぶつかり合うように動いているのがわかった。
Γあれは、何?!」
娘が気付いてそう言った時には、俺は立ち上がり呆然とその光を見ていた。
落下した二つの光の周りの海が割れて、強風に水しぶきが高く舞い上がる。海の上をもつれ合いながら光が稲妻を生み出し、もう一つが炎を巻き上げる。
地響きのように鳴り止まない轟音が、ビリビリと鼓膜を破るようだった。
ぶわっと吹き上がる熱風に目を凝らす。
なじみのある感覚に、唇を噛み締める。
俺の魔法。俺の魔力。
たとえ喪っても、自分の一部だったものを忘れはしない。
これこそ、夢を見ているのか?
光に包まれて俺の魔法を行使するのは、もう手の届かない所にいるはずの女。
Γ……ミヤコ…」
最高の魔法使いになった、想い焦がれた女。




