最高の魔法使いの帰還5
行く当てもないなら、ここにいたらいいのに。
リザは朝食の盆を運びながら思う。
Γ失礼します。」
横に引く戸をカラカラと開ければ、彼は寝台の上に身を起こしていた。朝の光の射す窓を見上げて、どこかずっと遠くを見ているような横顔。
リザは、目を奪われて立ち竦む。
傷を負った彼を最初に見た時、リザはこの世界の不思議を見たと思った。魔法使いだった人を初めて見た。
どこか影のある、だからこそ惹かれる美しい青年。
窓を見ていた彼が、いつの間にかこちらを向いていた。
Γ………」
Γあ、朝食を持って参りました。それと、傷の手当てを…」
黒い瞳に、心臓を波立たせて歩み寄る。傍に座り、盆を置いてから彼の包帯を巻いた腕に手を伸ばした。
Γ触るな。」
荒げた声ではない。だが、はっきりとした拒絶が返ってきた。
Γえ、ですが、包帯を取り替えないと…」
Γ替えを置いてくれたら、一人でできる。」
Γ……はい」
言われた通りにすると、器用に片手で包帯を取り消毒をして、新しいのを巻き出した。
Γ……何だ?」
部屋を出ずに座ったままのリザに、彼は問う。
包帯を固定するために口を使い、端を噛んで引っ張っているのが色っぽい。
Γあのっ、ルシウス様。父から聞いたのですが、もし帰る場所がないなら、ここにずっといらしてください。」
Γ……何か父親に言われたか?」
Γい、いえ、違います。父も村の人々もルシウス様を気に入ってますし…」
Γ……」
黙ったまま、再び包帯を巻き直す彼は、もうリザを見ようとしない。
Γ…よかったら、考えてみてください。」
自分に心を開かない彼に、悲しくそれだけ言ってリザは部屋を出た。




