最高の魔法使いの帰還4(ルー視点)
ヤクトの村は、山を下りた先、海にほど近い所にあった。人口も少なく、小さな村だ。
村長であるヤクトの家は、それなりに大きい。
俺は空いている部屋へと案内され、怪我の治療を受けていた。
Γ………っ」
Γ我慢しおって、痛いなら喚いてもよいぞ。」
Γこのっ、じ、ジジイ…」
村の薬師に腕の傷を縫われているのを、傍でヤクトと娘のリザが見守っている。いや、ヤクトは面白がってるのか?
痛みは、厄介だ。まともに思考が働かないし、眠れないし、生活に支障をきたす。人間は、身体的に辛いことが多すぎる。
Γはい、終わりました。今夜は傷のせいで熱が出るでしょうねえ。」
包帯を巻き終えて、ヤクトより年寄りの薬師が薬を渡してきた。
Γああ……感謝、する」
言い馴れてない言葉を言うのは、なかなか難しい。
娘と薬師が部屋を出て行き、使える方の腕を額に当て目を閉じる。正直へとへとだ。
疲れやすく、痛みや怪我にも弱く、無論魔法も使えない。今の自分の何と無力なことか。
Γ……ルシウス殿。何度も助けてもらって、なんと礼を言ったらよいか…」
Γなんだ、まだいたのか。」
鼻で笑って、目を向けた。先程のからかう態度を消して、ちんまりと正座をしてヤクトが俺をじっと見ている。
Γあんた、噂とは違うのだのう。」
Γそうか?そう言えば、最初から俺を恐れなかったな?」
ヤクトだけではない、この村の人々もだ。村にやって来た俺を見て警戒していたのに、ヤクトが何か説明すると、すんなり態度を軟化させていた。
Γ昔のことは知っておる。……悪い大人に操られた可哀想な子供がいたことならなあ」
心底悲しげにヤクトは言った。
Γなあ、ルシウス殿。もしかしてあんたは、世界中の誰もがあんたを憎んだり嫌ったりしていると思っているのかの?もしそうなら、それはあんたの思い込みじゃ。」
Γ……何?」
Γあんたのことに同情する者は多い。噂に惑わされず、本当のあんたを知りたいと思う者もいるんじゃよ。人間は、馬鹿ばかりではないからのう。」
俺の包帯を巻いた腕を見るヤクトが、穏やかに言った。
Γ儂は、お前さんが好きじゃがのう。なあ、あんた、娘の婿にならんか?」
枕を投げつけてやる。
Γジジイ、調子に乗るな、っう…」
痛みに顔をしかめて、腕で隠すようにする。
Γああ、痛むな。ゆっくり休むことじゃ。」
ヤクトが出て行く。
急に静かになった部屋。
ヤクトの言ったこと、考えもしなかった。自分はてっきり世界中から憎まれていると思っていた。
思いもかけぬ話だ。
思えば、人間の中で考えが違う者がいるのは当然のことだというのに。
Γ知ろうとしなかったのは、俺の方だったのか……」
目が覚めるような気分だった。