最高の魔法使いの帰還3
結界を張り直して地面に直撃するのを防ぎ、両手をついて起き上がる。
胸を貫かれた記憶を思い起こし、体がこわばる。
その間にも結界に光の玉が容赦なく注ぐ。
Γリュカ!話を…」
無表情を決め込んで私に攻撃を繰り返すリュカが、実は人を傷つけるのが好きではないことぐらい既に分かっている。
Γやはりまだ力を扱い馴れていませんね。話?怖じ気づいたのですか?」
Γ違うわ!」
片手をかざして、炎をリュカに投げつける。
リュカは、それを身をかわすことですんなり避けて、微笑を浮かべている。
Γその力、あなたには不相応です。ルシウスに渡してしまう前に…」
Γ私もルーも、ルルカやグラディアを滅ぼしたりしない!心配しすぎなのよ!」
Γあなたがそうでも、ルシウスは違う。私に恨みがあるでしょうし、気まぐれに何をするか…」
Γそんなこと…」
リュカの攻撃に、後ろ向きに倒れる。
Γいたっ…」
腕から出血して、鋭い痛みが走ったのはほんの少し。すぐに傷口が塞がっていく。
強い。
リュカは、何百年も生きている生来の魔法使い。いきなり魔法使いになって日が浅い私では、実力が違う。魔力の強さ云々より、私には経験値が圧倒的に足りない。
その上、召喚魔法を使った私は体力的に疲弊している。加えて言うなら冬だというのに、薄手のワンピースだし、気を付けないとめくれたら下着見えちゃうし。
翔んできたリュカが、私の襟元をぐいっと引っ張った。片手で持ち上げるようにして、私を冷ややかに見下ろす。
Γみすみす殺されに戻って来るとは、愚かですね。そこまでして、あの男を愛してるのですか?」
Γ……愛してる。」
泣きそうになるのを堪えて、リュカを睨む。
Γ今度は、私がルーを護る。もう絶対にあの人を一人にしない。」
僅かに虚を憑かれたような表情をしたリュカの手を炎で炙り、翔んで距離を保つ。
Γだから、こんな所で終わらない!」
赤くなった指先を平然と見やり、リュカが独り言のように呟いた。
Γまったく…あなたといいルシウスといい、囚われて抜け出せないというのは、こういうことなのですね。」
Γえ?」
意味が解らず、とまどっていると、事態に気付いた見張りの兵たちが駆けて来た。
Γリュカ様、何事ですか?!」
Γミヤコ様?!」
私を見た兵が、驚いた顔をしている。
Γ下がっていなさい。」
リュカが兵たちに言っているそばから、私は無言で翔んだ。
巻き添えにしないように、どこか遠くへ行かなければ。
Γ逃がすとでも?」
ぴたりと付いてくるリュカを確認し、人のいない場所を探して翔ぶ。逃げたりしない。戦う覚悟を決める。
不利な状況だが、一つだけ希望ができた。
リュカの行動は、私をルーに会わせないようにするのが目的。つまり、彼は生きているということ。
良かった。
砂漠に降り立ち、リュカと対峙する。風を体に絡ませて、息を整えて集中する。
勝たなければ。
やっとここまで来たんだ。
私はあの人に、まだ何も与えられていないのだから。




