生き方の選択6
お父さん、お母さん、満の三人に見守られて私は橋に立っていた。
深夜。真夏のうだるような暑さは日が沈んでも変わらないようだ。私は、ワンピースに上掛けを羽織って身一つだった。今の私には荷物まで持っていく力の余裕はない。
Γ都…」
Γありがとう、皆元気で…満、勉強頑張って」
Γそれ余計」
満が照れたように笑うのを見てから、私は家族と離れて距離をとった。
深呼吸を数回してから、手にした小さなナイフに人差し指と中指の指先を押し付ける。
Γっ…」
血が垂れる前に、知識通りに複雑な紋様を空中に描いていく。それらは描いたそばから金色に光って浮かび上がり、私を囲うように円上になるはずだった。
あっ!
私の力不足で、一部の紋様が消えかける。
ダメ!
気力を振り絞って、急いでもう一度消えた紋様を描き直す。失敗したら、この先50年使えない。不安を押し殺して、集中する。
目の端で、三人の心配そうな表情を捉える。
私も泣きそうな顔をしているはずだ。
嫌だ、嫌だ。
ナイフで治癒しかけた指を再び傷つける。深く切ってしまい、勢いよく溢れた血で慎重に描くと、やっと紋様が全て金色に光りだした。
すうっと頭上に昇っていくのを見送り、それから降り注ぐ光の中で口に指を添えて、召喚魔法の独特の音を唱える。
『私を向こうの世界へ召喚する』
頭の中で、そのイメージを思い描く。
ふわりと体が軽くなる。光に吸い込まれるように、地面から足が離れていく。
それに気付いて、私は家族に笑顔を向けた。
Γ都、幸せになって」
深く頷いて手を振る。三人が手を振る姿が次第に小さくなっていく。
やがて彼等が見えなくなるほどに天高く体が浮いて、そのまま引力のようなものに身を任せていたら、ふいに空が反転した。
Γきゃっ…」
上昇していたはずが、落下している。逆さまに空を見ていて、自分が隕石の一部になったようだ。
速度を増しながら落下する体。
地面に激突しそうだ。結界を張ろうか、でも召喚魔法の途中で他の魔法を介入させるのは、どうなるのか不安だ。
私は大丈夫なはずだ。リュカに召喚された時、無事だったのだ。私は結界を張らず、ぎゅっと目を閉じた。
******
目を閉じてから数分。身に染みる寒さに驚いて目を開く。
そこは一面草原だった。
仰向けに倒れていた私は、はっとして体を起こした。
物凄く寒い。
冬のようだ。
Γ成功した……?」
そうだ、前の時も季節は真逆だった。
だとしたら、ここは…
Γ帰って来、た」
ずっと抑えていた感情がじわじわと溢れて、私は居ても立ってもいられない気分で立ち上がった。
逢いたい!あの人に早く逢いたい!




