生き方の選択(満視点)5
土曜日。お父さんは休みだったけれど、お母さんはパートを休んだみたいだ。
Γ次、あれ乗ろう!」
絶叫系好きな姉ちゃんとお母さんは、二人で子供のようにはしゃいで乗りまくっていた。
俺は乗れないことはないけれどすぐに酔うから、 お父さんとベンチでのんびりしているか、ゲームコーナーなんかで遊んで過ごした。
本当は、遊園地なんて行く年齢でもないんだけどなあ。
皆無理してんのが、痛々しい。いつも口数が少なく静かなお父さんは、ベンチで缶コーヒーを飲みながら、時折目元を隠すようにして拭いている。
よく許したよな、お父さん。
Γお父さん、お待たせ!ね、一緒にあれ行ってみよ!」
姉ちゃんがお父さんの手を引っ張って、『怪奇病棟』と書いてある恐そうな建物に連れて行こうとしている。
Γえっ、都」
Γね、た、たまには行ってみようよ。」
いいのか?姉ちゃん無理してんぞ!
笑顔をひきつらせて二人で入っていくのを、俺とお母さんは固唾を飲んで見守った。
Γうわあっ」
Γひゃああ」
中から、案の定二人の悲鳴が聴こえて、俺はお母さんと爆笑した。
思い出作るのも、ハードル高すぎ!
よろよろと出口から出て来た二人に笑い続けていたら、姉ちゃんが今度は俺を引っ張った。
Γ次、満の番。」
Γえ、嘘、やだやだ!」
てっきり怖い所にまた行くのかと思ったら、姉ちゃんは観覧車を指差した。
Γ一緒に乗ってみない?」
Γう、うん。」
姉ちゃんと二人でなんて恥ずかしいとは思ったけれど、さすがに断れずに黙って乗り込んだ。
ゆっくりと上昇していく窓の外を見下ろしていたら、同じように見ていた姉ちゃんが、ぽつりと言った。
Γ満、お父さんとお母さんをお願いね。」
Γ…………」
震える声。窓に映る姉ちゃんは静かに泣いていた。
Γ満、今までありがとう。」
Γなに言って……」
じわりと自分も涙が溢れて、慌ててそっぽを向いた。上手く言葉が出てこない。
姉ちゃんとは、もうすぐお別れなのに。
Γ……姉ちゃん、幸せにならないとダメだからな。」
Γうん。」
Γもう怪我したりしないでよね。」
Γうん、大丈夫。私結構強い魔法使いなんだよ。」
よしよしと、いきなり姉ちゃんが俺の頭を撫でてきた。
Γばっか!恥ずかしっ」
Γふふ、満可愛い。」
赤くなる俺を、泣き笑いの顔で見ている姉ちゃん。沈みかけた夕陽にオレンジに照らされた姿が、綺麗で儚げで今にも消えそうで、俺は目に焼き付けるように姉ちゃんを見つめた。




