生き方の選択(満視点)4
夏休みに入って、俺が部活を終えて帰宅すると、姉ちゃんは部屋で手紙を書いていた。
勝手にいなくならないか不安で、俺はちょくちょく姉ちゃんがいるか確かめてしまう。
Γ姉ちゃん、わざわざ手紙?」
Γうん、友達にね。」
ラインでもなくなぜ?
そう思って、ぎくっとした。
Γ満、夜お父さんとお母さんに話すから。」
Γばっ、姉ちゃん…!」
Γごめんね。」
緊張した表情で、姉ちゃんは絞り出すように小さく謝る。
わかってた。
夜中に庭で魔法を操る姉ちゃんを見た時から。
毎夜、部屋を抜け出して練習をしているのを知っていたから。
Γ……いいの?信じてもらえるかわからないよ。」
Γうん。」
Γそれで、後悔しない?」
俺の問いに姉ちゃんは目を瞬かせてから、困ったように笑った。
Γもうずっと後悔してるよ。だから、これ以上後悔したくないの。」
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夜、いつもより遅く帰って来たお父さんが食事をして一息ついたのを見計らい、姉ちゃんは口火を切った。
Γお父さん、お母さん、話があるんだけど…」
上擦った声の姉ちゃんが俺に頷くのを見て、俺は居間を出て自室のベッドで膝を抱えた。
両親の反応が怖かった。どうなるか予想もつかなかった。
しばらくして、お父さんが大きな声を上げたのには、思わず耳を塞いだ。お母さんの涙声も聴こえる。それがしばらく続いて、長い時間が経ったように感じた。
膝を抱えてじっとしているのも辛くなった頃、気がつけば、声も聴こえなくなり静かになっていた。
Γ満?」
ノックと同時にお母さんの声がした。遠慮がちに開けられた戸から、泣いた後の目をしたお母さんが立っている。
Γ満は……知ってたの?」
小さく頷いてみせると、そう…とだけ呟いてお母さんは顔を上げた。
Γね、満。明日皆で遊園地行かない?」
無理して笑うお母さんに、こっちが泣きそうになる。
姉ちゃんは、説き伏せてしまったんだ。
強いな、姉ちゃん。きっと魔法も見せて、自分の意志を伝えて、叱られても泣かれても信じてゆるしてもらうまで根気よく話し合ったんだろう。
怒るより諦めのような気持ちになった。なんだか清々しい気さえしてきた。
Γ久しぶりだね、遊園地。」
俺とお母さんは顔を見合わせて、クスリと笑い合った。




