すぐにサヨナラ?5
「ね、都。進路どうするの?」
下校途中、友達の彩音とファミレスでお茶していた。
「進路…、大学の文学部かな。」
「四年制か。私はね、短大。幼稚園教諭の免許取って、先生するんだ。」
「そっか、彩ちゃん子供好きだもんね。」
夢を嬉しそうに語る彼女は素敵だ。私は、これだと言う夢がない。人の為に役立ちたいなんて思うけれど、漠然とし過ぎて…。
私は、何がしたいんだろ。
高2ともなれば、そろそろ将来を見据えて受験に備えなければならない。
「彩ちゃん、将来の私は何がいいんだろ?」
「えー、玉の輿?」
「…はいはい。」
これでも真面目に悩んで聞いたのに。
「うーん。都の特技って、美人で可愛い外見と少し頭良いぐらいだしなあ。」
にかにか笑いながら言う彩に、まんざらでもない顔を隠して聞く。
「それ褒めてるの?」
「褒めてる褒めてる!うーん、こんな可愛い都さん、男がほっとかないって。」
「いや、進路の話だから!」
ほっぺを彩音の手で摘ままれ、ムニムニされて、私はジトッとした目で彼女を見た。
「じゃあさ…」
『最高の魔法使いになるのです。』
「!!」
私はビクッとして目を醒ました。
豪奢な天蓋付きのふかふかベッドの上だ。
「ゆ、夢…じゃない。」
夢だけど、夢じゃない。リュカに言われた言葉も、起きたら異世界のままなのも夢じゃない。
さらりとした肌触りの寝間着に、汗をかいていた。私は顔を覆って、大きく息を吐いた。
この世界に来て一ヶ月。
私は今、ルルカという小国の貴賓扱いで宮殿で暮らしている。リュカはこの国の宰相兼魔法使いだ。
元の世界には帰れない。リュカが言うには、召喚魔法は大変複雑で魔力を使うもので、強い魔法使いでも50年に一度しか使えないそうだ。
リュカは一度もう召喚魔法を行使した。
だから、今すぐ私を帰せる人はルーしかいない。
この世界には、魔法使いは彼とリュカしかいないのだから。
あと一つ方法があるとしたら、私だ。リュカの予知の通り、私が『最高位』の魔法使いとなって、自分を元の世界に帰したらいい。
ただし、その為には…。
私が、現時点で魔力『最高値』で最強な魔法使いであるルーを倒すことが条件だ。
命を奪う時、魔力も奪えるのだそうだ。
「できるわけないじゃない…」
ただの人間の女子には不可能だ。
それに…
あの時、リュカに連れて行かれる時。
ルーはリュカの予知に、目を見開き驚いた表情をしていた。何か言いかけて動いた唇は、結局言葉を紡がなかった。
「ルー。」
どうしたらいいかわからず、私は名を呼んだ。彼はずっと無言だった。紅い瞳が、微かに揺れて私をじっと見ていた。
リュカが私の肩を掴んで、魔法で瞬間的に移動するまで。
私は、あの瞳が忘れられない。あんなに美しい宝石の瞳で、残虐に船を焼き払うあの人を見た時、私は感じたのだ。
ルーを救いたい。
何からとか、理由とか難しいことは上手く言えない。でも、直感的にそう思ってしまった。
だから、できない。
彼を倒せるわけ無い。闇の中にいる孤独なあの人を、私は守りたいのだから。
読んでくださりありがとうございます❗