予知のその先2(満視点)
満視点続きです。
下校途中、橋の向かい側で制服姿の姉ちゃんを見かけた。
Γねえちゃ…」
声を掛けようとして口をつぐんだ。
欄干から身を乗り出すようにして、姉ちゃんは川面を睨むようにして見ている。
ギクッとした。だって、そこは姉ちゃんの鞄が見つかった場所だから。
駆け寄って、袖をぐいっと引っ張った。
Γ何やってんのさ!」
Γわっ」
俺の気配も気づかないほどに考え事をしていたらしい。
Γ満、お、お帰り。」
ぎこちなく笑う姉ちゃんは、わかっているのかな。心配ばかり掛けて。
Γ何考えてたの?」
Γうん…。また今度話すね。」
言葉を濁して黙った姉ちゃんは、問いかけても謝るばかりで話さない。こうと決めたら曲げないんだから。
俺は病室で姉ちゃんから信じられないような話を聞いた。
正直、今でも信じられない。
姉ちゃんが違う世界に行っていて、魔法使いと知り合った結果、自分が魔法使いになったなんて。
だけど多分、姉ちゃんは全部は俺には話してくれていない。
事故に遭遇した後に目覚めてから、姉ちゃんは泣かなくなった。代わりにこうやって何かを考えている表情が増えた。
俺はそれを見るたびに、嫌な予感がした。
そして、ある夜確信した。
深夜、俺は喉が渇いて目を覚ました。
台所で麦茶を飲んでいたら、庭の辺りが光っているのが窓から見えた。
足音を立てないように、縁側から庭を覗いてみた。
思った通り、庭には姉ちゃんが立っていた。右手に桜の枝を持っている。集中しているのか、目を閉じてじっと動かない。
Γ………」
ふいに、くくっと右手の枝を軽く振り、それを頭上に掲げた。一瞬、枝が金色に光ったように見えた。
同時に、地面から巻き上がるようにつむじ風が舞い上がり空へと上っていく。
姉ちゃんの髪がぶわっと舞い、その赤い目が闇の中で光り輝く。
今度は枝に纏わりつくように炎が渦を巻き、風に誘導されて一緒に千切れるように空に向かって消えていった。
闇を照らす赤さに、姉ちゃんが別人のように妖しく美しくて見とれていた。
Γ満、いるの?」
こちらを向いた姉ちゃんに、はっとする。
Γ……姉ちゃん、何やって…」
Γ……練習してるの。」
そう言って縁側に腰かける姉ちゃんの隣で、俺は言葉を無くしていた。
Γ私は生まれつきじゃないから、使い方に慣れてなくて…こうやって杖がわりに、この枝を媒体にして魔法を練習してるの。ゲームの魔法使いみたいにね。」
Γ姉ちゃん。」
Γ桜の枝、大事に取っておいて良かった。まさかこんな使い道があったなんてね。」
枝を撫でる姉ちゃんを見る。
前のように、悲しそうでも寂しそうでもない。どこか吹っ切れたように強い意思を湛えている。
Γその力、魔法使いにもらったんだよね。」
Γうん。ルーっていう人。」
優しげな表情を浮かべる姉ちゃんに居たたまれない。
Γ姉ちゃん、もしかしてまた戻る気なの?」
こんな練習して、こんな表情して…俺だって分かるよ。
Γうん、私、ルーのいる世界に帰る。」
前を向いてしっかりした声で、姉ちゃんは言う。
好きなんだね、その人が。




