表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/207

結末の果て8

玄関に飾っていた桜の枝から花びらが全て落ち、春が終わり夏の盛りの頃。

私は18になった。

行方不明だった時のことが過去のことになりつつあった。


Γ姉ちゃん、ちゃんとついてこいよ。」

Γもう、そんなこと言って満が迷子になっても知らないからね。」

Γ姉ちゃんがだろ。」

Γむう…」


近所の商店街には、私がよく通うお店がある。

目的は服。私は断然スカート派で、このお店に並ぶ清楚な感じのスカートやワンピースが好みなのだ。

誕生日にもらったお小遣いで買いに行こうとしたら、弟の満が付いて来た。


Γなんで付いてくるのよ。一人が気楽なのに。」


前を歩く満にブーブー不満を言ったら、


Γ一人で歩いていなくなって、また皆に心配かけたらどうすんの!」


と怒るもんだから、しゅんとうなだれる。

家族や友達の泣き顔は、もう充分。


Γ…ごめん、心配してくれてありがと。」


なんだかんだで、弟は優しい。私を一人にさせるのが心配で付いて来てくれてるのだ。


商店街前の交差点の信号が赤になり、私達は横断歩道の手前で止まった。

満は、私と並んで歩くのが恥ずかしいみたいで、私より二歩ほど前で立っている。


もう中二だもんね。ふふ、照れてんだね。


私が満の背中を見ていたら、車のブレーキ音がした。

右折しようとした車が、対向車とぶつかるのを目の前で見た。

衝突した弾みで、対向車の車が満に向かって突っ込んできた。


Γわあああ!!」

Γ満!!」


反射的に弟を庇おうと両手を突き出した。

弟が避ける間もない速さの車が、すぐ目の前に迫る。目と口を大きく開けて、恐怖にひきつる運転手の男の顔が見えるぐらいで、私の思考が停止する。

ダメ、届かない!間に合わない!

満を助けられない。


そう感じた時、私の体から何か得体の知れないものが溢れ、突き出したままの手に流れて行った。


静かだった。


目を瞑り自分を庇うようにうずくまっていた弟が、恐る恐る目を開けた。

そして、尻餅を付いたのを私は見ていた。


Γ……な、なに?車が」


すぐ目の前で車は静止していた。

地面から浮いた状態で。


Γ……満、離れて」


促す私を、振り返った弟が息を呑んだ。


Γねえちゃ…、目が…」

Γ………」


おそらく赤い目に変わっているのだろう。

唇を噛み締めて手をかざして、車をそっと地面に下ろす。

呆然としたままの満を引っ張り下がらせると、もう一方の車が止まっている所まで翔んだ。


割れた窓ガラスから手を差し入れて、気絶している運転手の女性の頭の怪我を治癒する。

やり方は、自然に理解できた。


満を助けようとして、この身に与えられた魔法が発動してから、私に掛けられた洗脳は解かれた。

魔法は相手が同等かそれ以上の力だと消せるという。

だったら、彼の力なのだから当然だ。


治癒が終わって、私は糸が切れたみたいにヘナヘナと座り込んだ。


Γ姉ちゃん!」


満が走り寄る気配がするが、顔を向けることもできなかった。

記憶が一気に甦り、私は濁流のように押し寄せる

感情に息を詰まらせて身動きできない。


Γ…うあ…あ」


震える手で口許を押さえて、呻くような声を上げた。目からぱたぱたと涙が落ちて、道路を濡らす。

泣くなと言われたのに…


Γ姉ちゃん、大丈夫!?」


満が肩を揺さぶるが、私の意識は次第に白くなり闇に包まれてしまった。


あなたは残酷で優しい人だよ、ルー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ