結末の果て8
玄関に飾っていた桜の枝から花びらが全て落ち、春が終わり夏の盛りの頃。
私は18になった。
行方不明だった時のことが過去のことになりつつあった。
Γ姉ちゃん、ちゃんとついてこいよ。」
Γもう、そんなこと言って満が迷子になっても知らないからね。」
Γ姉ちゃんがだろ。」
Γむう…」
近所の商店街には、私がよく通うお店がある。
目的は服。私は断然スカート派で、このお店に並ぶ清楚な感じのスカートやワンピースが好みなのだ。
誕生日にもらったお小遣いで買いに行こうとしたら、弟の満が付いて来た。
Γなんで付いてくるのよ。一人が気楽なのに。」
前を歩く満にブーブー不満を言ったら、
Γ一人で歩いていなくなって、また皆に心配かけたらどうすんの!」
と怒るもんだから、しゅんとうなだれる。
家族や友達の泣き顔は、もう充分。
Γ…ごめん、心配してくれてありがと。」
なんだかんだで、弟は優しい。私を一人にさせるのが心配で付いて来てくれてるのだ。
商店街前の交差点の信号が赤になり、私達は横断歩道の手前で止まった。
満は、私と並んで歩くのが恥ずかしいみたいで、私より二歩ほど前で立っている。
もう中二だもんね。ふふ、照れてんだね。
私が満の背中を見ていたら、車のブレーキ音がした。
右折しようとした車が、対向車とぶつかるのを目の前で見た。
衝突した弾みで、対向車の車が満に向かって突っ込んできた。
Γわあああ!!」
Γ満!!」
反射的に弟を庇おうと両手を突き出した。
弟が避ける間もない速さの車が、すぐ目の前に迫る。目と口を大きく開けて、恐怖にひきつる運転手の男の顔が見えるぐらいで、私の思考が停止する。
ダメ、届かない!間に合わない!
満を助けられない。
そう感じた時、私の体から何か得体の知れないものが溢れ、突き出したままの手に流れて行った。
静かだった。
目を瞑り自分を庇うようにうずくまっていた弟が、恐る恐る目を開けた。
そして、尻餅を付いたのを私は見ていた。
Γ……な、なに?車が」
すぐ目の前で車は静止していた。
地面から浮いた状態で。
Γ……満、離れて」
促す私を、振り返った弟が息を呑んだ。
Γねえちゃ…、目が…」
Γ………」
おそらく赤い目に変わっているのだろう。
唇を噛み締めて手をかざして、車をそっと地面に下ろす。
呆然としたままの満を引っ張り下がらせると、もう一方の車が止まっている所まで翔んだ。
割れた窓ガラスから手を差し入れて、気絶している運転手の女性の頭の怪我を治癒する。
やり方は、自然に理解できた。
満を助けようとして、この身に与えられた魔法が発動してから、私に掛けられた洗脳は解かれた。
魔法は相手が同等かそれ以上の力だと消せるという。
だったら、彼の力なのだから当然だ。
治癒が終わって、私は糸が切れたみたいにヘナヘナと座り込んだ。
Γ姉ちゃん!」
満が走り寄る気配がするが、顔を向けることもできなかった。
記憶が一気に甦り、私は濁流のように押し寄せる
感情に息を詰まらせて身動きできない。
Γ…うあ…あ」
震える手で口許を押さえて、呻くような声を上げた。目からぱたぱたと涙が落ちて、道路を濡らす。
泣くなと言われたのに…
Γ姉ちゃん、大丈夫!?」
満が肩を揺さぶるが、私の意識は次第に白くなり闇に包まれてしまった。
あなたは残酷で優しい人だよ、ルー。




