結末の果て7
私は久しぶりに友達の彩音とお茶していた。
いつものファミレス。
Γなんか随分来てなかったね。」
Γうん。」
学校の帰り。以前からコーヒーと好きなチーズケーキを前に、彩音とコイバナ(他人の恋愛について)やクラスの話題をとりとめなく、こうやって話したりしていた。テスト前には勉強を教え合ったりして、ここによく来たものだ。
Γありがと、誘ってくれて。」
Γううん。…もう大丈夫?」
行方不明だった時のことを言っているのだとわかり、頷く。
Γそっか。無事で良かったよ。」
よしよしと頭を撫でる彩音の表情が真剣で、小さく謝る。
Γごめんね。」
Γ何があったか知らないけれど、相談ぐらいは乗るからね。」
Γありがと。」
記憶がないとはいえ、私が自分の意思で家出した可能性も視野に彩音は言っているのだろう。
私には、家出するような悩みはないのだが。
ただ、行方不明の時のことを思い出そうとする度に、訳もわからず泣きそうになる。
暗くなる私に、彩音が慌てて話題を変えた。
Γそう言えば都、竹山君また振ったの?」
Γぐっ!けほっ、なんで知って!?」
コーヒーにむせる私の反応に、彩音が肘をついてやっぱりそうかと言う。
Γ竹山君が廊下で友達と話してるの聞いたのよ。好きな子に告白して、またフラれたって。」
Γ…また?」
Γそう、また。話からして、都のことでしょ。なんで?良い人っぽいのに。」
Γなんでって……」
戸惑う私に、彩音は溜め息を吐いた。
Γ都、何か雰囲気変わったね。」
Γえ?」
Γ前より大人びて…綺麗」
Γえ?」
Γ誰か好きな人…ううん、何でもない!」
私が口を開く前に、彩音は鞄を持つと立ち上がった。
Γ帰ろっか。今日は私がおごるよ。」
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帰宅した私は、自分の部屋の机の引き出しを開けた。そこから、小さな箱に入れたイヤリングを取り出す。
発見された時に着ていた服は、病院で治療の際に切られて、警察の調べの後処分された。
だが、この片方だけのイヤリングは私が離さなかった。
辛いようなら捨てようかと家族には言われた。
自分でもよくわからない。
これだけは嫌だ!絶対に渡さないと取り乱して泣いたのはなぜだったのか。
私が発見された時に持っていたものなら、これを手掛かりに何か思い出せないだろうか。
手のひらに載せて見つめる。
Γわからない。」
いくら試しても、何か思い出せそうだと感じる度に、急に遮断されるように記憶が遠のくようだった。
しばらく試して諦めて、手でイヤリングを包むように握り、私は自分の胸に押し当てた。
そうすると息苦しくなるぐらい切なくて、無性に寂しくなるのはどうしてだろう。




