すぐにサヨナラ?4
ふと目が覚めた。まだ夜中だ。
私はあの後、まだたくさん彼と話がしたかったのだが、うるさいから寝ろと言われて渋々毛布をひっかぶった。
明日ルーに帰してもらう。帰ったら、カッコいい魔法使いのこと、弟に冗談混じりに話そうなんて思いながら、いつの間にか寝ていた。
「…あ、れ?」
体を起こしてみると、ベッドの上だった。焦って辺りを見回した。ルーはいなかった。
もしかして、代わりにソファーで寝てるのかな?
いつの間に運んでくれたんだろう。
迷ったが、ベッドを下りた。
突然の異世界。なんだかんだで世話を焼いてくれる彼。その姿が見えないと、途端に心細い。
リビングに行こうとして、ふとベッドの傍の窓を見た。
「ルー?」
外の小庭から、森の方へ歩く彼の姿が微かに見えた。こんな時間に何処へ行くのか、なんて考えるより早く、私は急いで玄関を出た。
ルーからもらったワンピースのまま眠っていたから、そのまま後を追う。
森には、山へと続く道がある。日中散策して確認済みだ。
あっという間に、ルーの姿は見えなくなった。声を出して名を呼んでみようかと思ったが、それを音にする前に飲み込む。
なんだろう。何か嫌な予感がする。静かな闇夜に、遠くで微かに何か聞こえた気がした。
急に不安になり、私は彼を追うために駆け出した。
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パチパチ…パンッ
木のはぜる音。
ルーが、また腕をかざした。その手に黄色い炎が
踊る。彼がその手を迷うことなく払うと、また船が火を噴いた。
十隻ほどだろうか。全ての船が燃えている。
焦げ臭い風が、彼の長めの前髪を上げた。
ルー!
顔を上げた彼は、冷たい笑みを浮かべていた。
燃える船を、愉しそうに見ている瞳は、紅い宝石のように妖しく輝いていた。端正な顔が炎に照らされ、ゆらりと浮かび上がる。
近寄りがたく、私はただ彼を見つめていた。衝撃で震える膝に座り込もうとした。
だが突然、腕を掴まれて立たされた。
「初めまして。」
気配もなく、長い黒髪の男が近くにいた。
「やはり貴様の仕業か。」
ルーは、落ち着き払ってこちらを向いた。
濃青のシャツが風で緩くはためいた。
私に目を向けてから、紅い瞳を直ぐに逸らした。逃れるような素振りは気のせいか。
「彼女を迎えに来たのです。さすがに、貴方の結界が張る自宅には入り込めないので、そこから出てくるように仕向けさせてもらいました。」
そう言うと背の高い男は、私の腕を持ったまま、いきなり膝をついた。
「えっ?」
「ミヤコ、私はリュカと言います。貴女を召喚したのは私です。」
にこりと中性的な笑みで、私を見上げ、手の甲にキスをした。
「ひゃあ」
「なっ?」
驚いたのは、私だけではなかったみたいだ。
でも、その後もっと驚いたけれど。
リュカは嬉しそうにこう言った。
「貴女を召喚したのは、私の特殊な魔法である予知により、貴女が次の最高の魔法使いになることが決まっているからです。予知から17年、ずっと貴女を待っていました。」