結末の果て3
私は藤川都。
高校三年生になった。理由がやむを得ないものだった為、出席日数が足りないところをテストを受けて進級を許された。
そりゃあ、必死で猛勉強したよ。授業に追い付くまで本当に大変だったんだから。
行方不明になった騒動の後、初めて登校した時はかなり緊張した。家の前や校門前にはマスコミがいたり、クラスの皆の好奇の視線も辛かった。
でも、比較的田舎の高校。一学年三クラスで、ほとんど顔を知ってる。初めは私にその時のことを聞きたがっていた皆も、私が全く記憶が無いことがわかってからは、少しづつ普通に接してくれるようになってきた。一ヶ月もすれば、私が行方不明になったことなど触れもしなくなった。
たぶん、気を使ってくれているのかもしれない。マスコミも鳴りを潜めてしまった。ただの家出で取り上げるほどじゃないと考えたのかもしれない。
Γ都、すぐ帰るの?」
Γうん、お先に。」
ファミレスに寄る友達と別れて、一人で帰ろうと手を振る。
校門を出た所で、後ろから呼ばれた。
Γ藤川、待って。」
Γえ?」
息を切らして自転車を押した竹山君がやって来た。
Γ一緒の方角だし、途中まで帰っていい?」
Γあ、うん。」
ドキリとして頷く。正直気まずい。去年の秋、私は彼から告白されて断ったのだから。
Γ藤川、もう体調は平気?」
Γう、うん。ありがとう。」
言葉少なに二人で歩く。長いなあ、道。
Γ記憶…、やっぱりないの?」
Γうん。」
Γそっか。」
三年で同じクラスになった竹山君。気が優しくて、落ち着いた大人びた雰囲気の彼は、結構もてるらしい。
三差路に来た。
Γあ、私こっちだから。」
Γうん。藤川、あの…」
鼻の頭を掻いて、竹山君が私に向き直った。なんとなく予想がついてしまい、私は俯いた。
Γ藤川、いなくなって凄く心配した。」
Γうん…ありがと」
Γいなくなって…、やっぱり、好きだなって気付いて…あきらめられなくてさ」
顔を赤くしながら、私を真剣に見ている。
Γもう一度、考えてくれないかな?俺と付き合うの…」
Γ…たけ…」
Γ藤川、前断った時、本当に好きな人がいるからだったの?断りやすいから、そう言ったのかと思って…」
Γごめん、なさい…」
迷うよりも、喉をするりと言葉が通っていった。
Γありがとう、竹山君。でも、ごめんね。」
がくりと肩を落として、彼は苦笑した。
Γやっぱりいるの?好きな奴。」
そう聞かれ、チリチリと胸が疼いて痛い。
Γ……うん。」
口をついた答えが、ストンと胸に落ちた。
記憶に無い行方不明だった時のこと、私は急に知りたくなった。
とてもとても大事なことを忘れている。それだけを感じた。




