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結末の果て2

身体中薄汚れ、整った顔は殴られたのか赤く腫れて擦り傷を作っている。

壁にもたれて座り、目を伏せる男を、リュカはしばらく見ていた。


これが、最高の魔法使いの成れの果て…


よく見ると、彼の手の爪が剥がされて血を流している。見張りの兵に拷問されたか…

王宮に務める者は、世襲制であることも多い。兵達の中には、50年前にルシウスによって親や兄弟、親しい者を殺された恨みある者もいるのだ。


Γ……満足か?」


気配に目を開けたルシウスが、リュカを見て言った。


Γ惨めですね。」

Γこれが、貴様の望んだことか?魔法使いとしての俺の存在を殺すこと…全ては国を護るためか?」

Γルルカの王は、代々短命でした。私は…数百年に渡り、始祖からお仕えして何十人もの王を見送ってきました。その中でもローレン様は始祖によく似て聡明で革新的な考えをお持ちで野心に溢れている。私が心底お仕えしたいと思ったのは、始祖とローレン様二人だけ。私は彼のために、彼の代で世界を手に入れようと思いました。」

Γ夢のためか?」


身体が辛いのか、リュカを見るのを止めてルシウスは頭を壁に付けた。


Γ短命かもしれないローレン様のために、早く夢を実現したかった。そのためにグラディアを婚姻関係により手に入れることを裏で工作し、反乱分子を遺恨ないように一掃し、邪魔なあなたから力をもいだ。あなたが力を失えば、私がこの世界の最高の魔法使い。何も危惧することはなくなる。」

Γそうか。では計画は上手くいったわけだ。」


淡々としているルシウスに、リュカはなぜか苛々した。


Γ悔しくないのですか?気位の高いあなたが、惨めに捕まって。」

Γ悔しがる俺を見たかったのか?別にどうでもいいな。それで、俺をどうする気だ?処刑するのか?」

Γいいえ。この国はローレン様が死刑を廃止しました。あなたは一生ここから出られないでしょう。」

Γそうか、なら良かった。」


怪訝に目を細めるリュカに、ルシウスはにやりと笑った。


Γ人間なんて、放っていてもすぐに死ぬ。だが、それまでは…あいつを想っていられる。」


意味がわからない。リュカには理解できない。長い年月、恋など愛などという厄介な感情に翻弄される人間を見てきた。その愚かさ哀れさだけが、目に付いた。


Γ……ルシウス、人を愛するとはどういうものです?」


不思議そうに聞くと、まじまじとリュカを見たルシウスは、肩を揺らせてくつくつと笑った。


Γ俺の倍生きてる貴様が、俺に聞くか?」


立てた膝に腕を置き、ルシウスは哀れむようにリュカを見る。


Γ可哀想な男だな」


ゴキッ

言ったそばからリュカに右腕を折られ、うずくまる。


Γあ、ぐっ…!」

Γ人間の癖に…」


痛みに手を庇い、歯を食い縛るルシウスをリュカは冷たく見やった。

それから、踵を返した。


Γ地獄だ…」

Γ何が?」


今の状況か?

苦しげなルシウスの呟きに、リュカは眉をひそめて振り返った。


Γ……人を愛することは…地獄。抜け出せない、苦しくて甘い、そんな地獄…」


荒く呼吸をしながら、落としたイヤリングを左手で拾い、ルシウスはそれにキスを落として微笑んだ。









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