あなたに笑顔を3
家から車で20分ほどの所にある広い公園。
ここは、市内でも有数の桜の名所。
子ども達の遊ぶ大型遊具の広場の隣には、細い人工の川が引かれ、近くにはベンチやテーブルが据え付けてある。
その一画で、バーベキューの後片付けをしていた。
Γいいから都、少し座って休みなさい。」
Γえ、大丈夫だよ。」
Γダメだって!姉ちゃん、退院したばっかじゃん。無理すんな!」
父と弟に言われて、母にベンチに座らされてしまった。仕方なく、桜を見る。
もう平気なのに。身体は、医者も驚くほどに回復していた。
問題は…
雲の無い水色の空に、七分咲きの桜が美しい。ぼんやりと見ていたら、またどうしようもなく胸が締め付けられて涙が出そうになった。
ああ、また心配させちゃう。
家族に気付かれないように瞼を拭いていたら、足下に落ちていた枝に気付いた。
Γあ、勿体ない。」
誰かが折ったのだろうか?桜の花が咲いた状態の一降りの枝を拾って、私はその花の美しさを間近で眺めた。
Γ綺麗。」
透き通るような桜色。それに良い薫り。
Γ姉ちゃん、帰るぞ。」
Γあ、うん。」
片付けを終えた三人が、私を待ってくれている。
私は立ち上がると、枝を持ったまま駆けて行った。
片方だけの銀色のイヤリングが、ゆらゆらと耳元で揺れた。
次回、地に墜ちた…




