あなたに笑顔を
体が動かない。
瞼を開けると、ルーの顔が近くに見えた。
Γ…る…ぅ」
額から血を流したルーが、私を見る。
怪我はすぐ治るのだろうけれど、痛いのは感じるはずだ。
手を呼ばして血を拭こうとするのに、上手く力が入らない。ルーの額に触れることができずに、途中で下りていく手を、ルーの手が受け止める。
Γ俺の、心配ばかり…!」
呻くような声。私の手を自分の口許に運び、ルーは苦しそうに顔を歪めた。
何だろう。悲しみ、不安、恐れ?
ああ、そうか。私、ルーを置いて…
そこで私は気づいた。夜の闇のはずなのに、赤く照らされる空。宙に浮かぶ私達の下、炎に燃やし尽くされる大地。森も家も畑も、動物も人間も…
Γだめ…けし…て」
Γ………」
私を抱き締め俯くルーに、なんとか声を紡ぐ。
Γけ、し…て」
Γミヤコ」
Γ…けし…」
Γわかった、わかったから!」
とうとうルーがそう言えば、炎は瞬く間に消えて、あとには黒く焦げた大地が残った。
良かった。ルー、止まってくれた。
ルーには、もう誰も憎んで欲しくない。
私の手を握るルーの手が、震えている。
私は彼にたくさん伝えたいことがあるのに、伝えきれる時間が少ないとわかっていた。
だんだんと視界は霞むし、もう声も出せなくなってきた。
でも、微笑むことはできた。彼が少しでも苦しまなくて済むように。未来でいつか笑ってくれるように。
ルーは、そんな私を見つめてくれた。
笑って…、そんな泣きそうな顔をしないで…
最期なら…、ルーの笑顔を見たいと思った。
でもすぐに暗闇が押し寄せて、私は何もわからなくなった。