分岐点9(ルー視点)
早く血を止めねば!
床に膝をついて、ミヤコの上半身を片手で支えて、胸の傷に片手を宛がう。
Γあ…こほっ」
また真っ赤な血を口から吐いた。青い顔で、みるみる冷たくなる体。
治癒を急がねばならないのに、思うように体が動かない。ミヤコの血が流れて、自分の胸や腕を染めていく。それを目に入れてから、自分が上手く呼吸できないようだった。
貫通した大きな傷は、確実に心の臓にダメージを与えた。
死んでしまう…
そう思い至って、傷を覆う自分の手が小刻みに震えているのを見た。
何て不様な姿!なぜリュカがミヤコを殺さないと思っていたのか、早く結界を張っていれば。
治癒を早くせねば、命が消えるよりも早く!
Γミヤコ…ミヤコ…」
名前しか呼べなくて…、目を閉じてしまった彼女に。
ドスッ
ドッ
ドッ
額からポタポタと血が垂れて、顔を軽く振って払う。いつ受けたのかわからないが、背中や肩や腕に矢が刺さっていた。
ああ、結界も張っていなかった。ズキッと痛みが走るのを無視して、ミヤコの治癒に集中する。自分の傷など、どうでもいい。放っておけばいい。
治癒しながら、ミヤコをそっと胸に深く抱き寄せる。これ以上傷つかないように、自分の体を盾にする。
彼女の傷が癒え、血がようやく止まった。
そのまま手を胸に置いたまま、集中し続ける。
心の臓に、魔法で何度も振動を与える。
しばらくしたら、小さく動き出して呼吸を再開した。
ミヤコを抱き上げる。今にも止まりそうに繰り返すか細い呼吸が、一時的な蘇生に過ぎないことを知らせる。
Γ…っ」
憎らしいほど落ち着き払ったリュカが、こちらを見ていた。その隣で、リュカに喚く男。
Γなぜミヤコに攻撃をした?!リュカ殿、話が違う!」
そうだ、なぜだ?なぜミヤコが傷付く?
わからない、わからない!
だが、今はもう…なんだっていい
喚いていた男が、炎に包まれて悲鳴を上げる。
行き場の無い怒りが増大する。
ミヤコを抱えて、地を蹴った。空中で止まり、眼下に広がる大地に魔法を打ち込む。
紅蓮の炎と渦巻く風に、たちまち呑み込まれていく大地。
ああ、そうだ。消えればいい。燃えてなくなれ。
徐々に朱に染まる世界を放置し、俯いてミヤコの額に頬を寄せる。
冷たいままのミヤコ。血を流しすぎたのだ。傷を癒しても、血までは元に戻せない。
これ以上体温を失わないように、命が消えないように抱き締める。
Γ……ミヤコ」
ポタリと額から落ちた血が、ミヤコの唇を伝った。