分岐点6
Γ…ルー」
私なんかを、どうして好きでいてくれるのか。あんなに傷つけて、酷い女なのに。
Γすぐには侵入できないはずです。私が何ヵ月も前から張った結界が一万近く、この建物を覆っていますから。」
Γ何をする気なの?あなたは、一体何が目的なの?」
Γ今にわかります。」
天井を見上げて言うリュカは、嬉しいような悲しいような不可解な表情をまたした。
Γルーが憎いの?」
Γ勿論、父の仇ですから。」
Γあなたのお父さんを殺したのは、リリアのはず…」
Γ知ってます。」
何だろう、憎しみではない?
私は、リュカの顔を探るように見つめた。その視線を受け止め、真っ直ぐに見返す彼の瞳には、強い信念のようなものを感じる。
ああ、そうか。
Γリュカ、あなたは…」
私が呟くと、微かに瞬きしてリュカは、また無表情になる。でも、前よりも冷たい印象は受けなかった。
魔法使いに心がないなんて嘘。ルーもリュカも、皆が思うよりもずっとずっと…
きっとリュカは、心に抱えた想いのためだけに動いている。
Γこれからあなたがしようとする事、あの子は知っているの?」
Γ……いいえ。私の一存でしていること、あの方には関係ありません。」
Γそう。」
Γ……もういいでしょう。あなたには…」
Γえ?」
眉を寄せ、一度険しい顔を私に見せて、リュカは黙って立ち去った。
*****************
私は幾度も鳴り響く轟音に耳を澄ませた。一つ一つの結界を破りながら、ルーは何を思っているのだろう。
どんな顔をしたらいい。あんなに拒絶した私が今さら、どんな言葉を彼にかけることができるだろう。
これはリュカの罠。わかっていて、彼は…
高い天窓しかない、薄暗い部屋。開かない扉に厚い壁。壁にもたれたまま、私は座って過ごした。
何もできない自分が歯痒かった。
夜がきて、朝がきて、昼がきて…何も食べず飲まず、鳴り止まない音が伝える、ルーの気配だけを感じ、私はイヤリングを握っていた。
次回 再会と…




