分岐点2
Γくっ」
風圧に跳ばされたリュカは、光の弾を作り上げた。何百ものそれが空中に漂い、一斉に少年に降り注ぐ。
体を貫くはずの弾は、彼の体を避けるように通り消えていく。
間髪入れず、雷撃の魔法を繰り出そうとしたところを、風の刃がリュカの肩を切り裂く。
Γっ!」
結界を張ろうとすれば、火で炙られ霧散した。
翔んで間合いを取ろうとしたら、風が腹を貫いた。
Γうあっ」
治癒が追い付かず、地面に倒れこむ。
Γもう終わりか」
立ち上がろうとするリュカの肩を足で踏み、ルーは冷笑した。
Γ10年、探しました。あなたをここで…ぐっ」
Γ俺を倒せるとでも?」
ぐっと足に力を入れて、リュカを地面に縫い止めてルーは見下ろす。
Γあなたは、災いをもたらす。我が王、我が国のためにも、消えてください!」
Γムリだな」
肩から腹の傷に足を移して、強く踏みしめてルーは赤い瞳を残忍に光らす。
Γうぐ…後顧の憂いを断たねば…」
体を起こそうとするリュカを蹴り倒し、ルーは踵を返した。
Γ出直すがいい。貴様には、守るべきものがあるのだろう?」
背中を見せ土煙の中去っていく仇を、リュカは睨むことしかできなかった。
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あれから40年。
あの時は、焦燥と不安ばかりが募ったものだ。
だが、予知を視て杞憂だったと知った。
未来は、思い通りに動いていくのだ。
その鍵となる娘を、今リュカは見つめていた。
暗い森の中、樹の根元にしゃがみこみ、口元を手で押さえて声を殺して泣くミヤコ。
同情はしない。理解しがたい感情に翻弄されて、哀れと思いはするが。
Γだから言ったのですよ、後悔すると…」
ゆっくりと手を彼女に向けて伸ばす。
Γ来なさい。」
常に働いていたルシウスの監視が、今はない。心に余裕の無いなど、あの男らしからぬ。
Γさあ…」
ふらふらとミヤコが顔を上げた。泣き腫らした目で、虚ろにリュカを見た。
それから目を瞑り、手をリュカの手に重ねた。
予知の完遂が近い。長年のつかえが下りた気がした。
ここが、分岐点。
憔悴した顔で、彼女は目を閉じて涙を流し続ける。
最高の魔法使いに愛された女。彼女は必要な駒だ。