分岐点
Γ陛下。」
寝室で眠っていたローレンは身を起こして、窓の辺りを見た。
Γ報告か?」
窓の外に、男が一人ひざまずいている。諜報を任せている者だ。
Γやはりカリーザの領主は、陛下を失脚すべく動いている様子。秘密裏に他の同調する貴族と連絡を取りあっていました。」
Γ分かりやすいお兄さんだね。さて、どうしよっかな。」
子供だと軽んじて、痛い目を見た輩は何人もいるのだ。早く大人になれないから焦れったいものだ。
Γ……親密に連絡を取り合う者の中に、その…」
Γ何?」
言い淀む男が、窓の小さく開けた隙間に紙を差し込んだ。内側からそれを受け取ると、ベッドサイドのランプの元で開いて、書かれた幾人かの名を無言で読んだ。
Γ……あいつ」
身近の魔法使いの名を見つけて、怒ったように呟いた主君に、男が問う。
Γどうしますか?」
Γ放っておけ」
驚く男に苦笑しつつ、ローレンはしっかり全ての名を記憶して紙をランプの火で炙った。
Γよろしいので?」
Γ僕に内緒で動いていたのは癪だけど、僕のためにしていること、いや、この国のためだろうから様子をみる。引き続き監視を頼む。」
Γ陛下」
心配する忠臣に大丈夫だと言って、焦げた紙を手で握り潰す。
Γ50年前、リュカは赤ん坊だった僕の父を命懸けで救った。自分の命よりも大事なものを裏切るはずないだろ。」
リュカは自分に夢を託している。それは、彼の父シャンハとの約束だから。
その夢のために、自分に代わり彼が根回しや汚いこともやってきたのを知っている。
Γ損な役回りだね。過保護も大概にして欲しいよ。」
子供のローレンは一つ欠伸をしてから、手を軽く拭くと再びベッドにもぐった。
それから少しだけ、黒髪の娘の行く末を思いながら眠りについた。