祭のあと7
私達の頭上を照らしていたランプが、大きく炎を上げた。
Γ……手放す時期は、過ぎた」
低く静かな声で、ルーは言う。感情を抑えているのは、わかっている。
Γシノールの話を聞いたのか?」
私が頷くと、彼はふっと息を吐き少し目を伏せた。
Γ俺が、そのことを考えなかったとでも?出会ってすぐにお前がリュカに連れて行かれるのを、なぜ黙って見送ったと思う?」
片手で口元を隠し、私は唇が震えるのを堪えた。
Γもう決めたことだ。何と言おうが俺はお前を離したりしない。」
揺らがない瞳が、私を射ぬくように見つめる。
ダメだ、ダメだよ
パアッン、と空に乾いた音が響いた。ルーの肩越しに青い花火が見えた。
私達に気付いて、こちらを見ていた人々が空に視線を移した。
ゆるゆると首を振る。
Γミヤコ」
Γ……洗脳の魔法は、自分自身にもかけれるの?」
掠れた声で、ルーが言った。
Γ可能だと言ったら?」
Γあなたが私を離さないなら、いつか私がいなくなったらその時は…」
声が震える。
Γその時は、洗脳で私を忘れて。最初から私なんかいなかったように…っ」
言い終わる前に、強い力で手首を掴まれた。持っていたカップが落ちていく。
それが地面に落下する前に、私はルーにより違う場所に翔ばされていた。
私達が借りている領主の館の部屋。
私は壁に手を押し付けられて、怒りで燃え立つ赤い瞳を見た。
Γ今、お前は俺に最も酷いことを言った!」
素早く扉を見ただけで、カチャリと鍵がかけられた。
Γわかってる…」
手首を掴むルーの指が震えている。
傷つけた、傷付けている。大好きな人を。
Γわかっているだと?だったら俺も言わせてもらう!」
息のかかる距離で、ルーが血を吐くように叫んだ。
Γ早く俺を殺してみろ!俺の未来を案ずるぐらいなら、お前が最高の魔法使いになればいい!」
Γうっ、うう…」
限界だった。堪えていた涙が溢れて、へなへなと私は床にくずおれた。強く押さえつけられていた手首が解放されて力なく下りる。
壁に腕をつき、ルーは苦しそうに目を閉じた。
胸に何かがつかえたように、息苦しい。
ルーも私も必死だった。
愛してるから。傷付けあうぐらいに。