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祭のあと6

祭3日目は、シノールの棺を仮所から祠に還すことで終わる。

初日よりは、人は僅かに減っているが、それでも気を抜けばすぐに迷子になるだろう。


Γしっかり握ってろよ」


袖だけ持っている私の手を掴もうとするので、私はルーの腕にすがるように手を絡めた。

くっつく形になって、ルーは満足したのか、それ以上は何も言わなかった。


Γ屋根から見るか」


眺めの良い場所を探している彼の横顔を、私は見上げた。

遠い……

ルーをこんなに遠く感じるのは、初めてかもしれない。彼は、どんな想いで私といるのだろう。

私をグラディアから連れ去った時、それが戯れのように軽いものじゃなく、共にいようとする重い決意だったのだとわかってしまった。


迷っただろうに。

世界も時も違う、私なんか及びもよらない魔法使いという特異な存在。そんな彼が私を愛してくれたことは、すごいことだったのかもしれない。

私なんかを……


山車が初日とは、反対の方向に進んでいく。二人で屋根からそれを見た。ゆっくりと過ぎ去るのを見送る。


Γ祭も終わりだね。」

Γああ、ミヤコ……」

Γ何?」

Γいや……」


ちらりと私を見てから、何か言いたそうにしていたが彼は口をつぐんでしまった。


棺が祠へ還り、祭も終わりが近付いたようだ。最後に花火が上がるのを、私はルーと噴水広場の端のベンチに座り待っていた。


Γどうした?」


ルーが、私に飲み物を渡して聞いてきた。


Γ元気ないようだな。まだ頭痛がするか?」


座る私の前にかがみ、ルーが頬を撫でる。


Γううん。大丈夫よ。祭終わっちゃうね。なんだか淋しいね。」


笑おうとしたら違う表情になりそうで、私はルーの視線を避けて俯いた。


Γ……ミヤコ。そろそろ帰らないか?」

Γえ、花火は?」

Γ違う。俺の家にだ。」


すっと立ち上がり、ルーはじっと私を見つめてくる。


Γミヤコ、俺はお前と…」

Γルー、教えて欲しいの」


卑怯な私はわざと遮った。


Γ何だ?」


不満そうな彼の声に、急に心臓が跳ねる。

言わないといけない。遅かれ早かれ、彼を思うなら言うべきことだ。


飲み物のカップをぎゅっと握り、私は顔を上げた。


Γ……ルーは、いつか私が死んでも、その後の人生を笑って生きてくれる?……幸せでいてくれる?」


ぴくっと、ルーが体を小さく揺らした。

しばらく黙ってから、私の頭の上に声がぽつんと落ちた。


Γ……笑えない。幸せでいられるわけないだろ。」


その絞り出すような言葉に、私は唇を噛んだ。

私はルーを苦しめない。シノールのようには、させない。

それならどうしたらいいか、私はずっと考えていた。未来のあなたを守りたいから、今のあなたを私は傷つける。


Γルー、私を、手放して」



別れの予感

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