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祭のあと5

夕方、私はイリスと侍女に着付けを手伝ってもらいながら神話を聞いた。

それは、創世の魔法使いシノールの話だった。


Γ世界を創り上げたシノール様は、その後も人々のため魔法を使って助けていました。そんなある時、彼は人間の女性と恋に落ちました。彼女を深く愛したシノール様は、世界に興味を失い、次第に調和の保てない世界に変わりつつありました。人々は、絶えず争いを繰り返し、死と悲しみが満ちていきました。」


両の襟を合わせ、右肩辺りの前ボタンをはめながら、イリスは淡々と物語る。


Γ不安を募らせた人々は、遂にシノール様の恋人を殺害することにしました。恋人にしか興味を示さないなら、いなくなればシノール様が世界に目を向けるだろうと思ったからです。」

Γ……そんな」


水色の帯を締めて、端を後ろで複雑に巻いて小さな飾り帯ができた。


Γシノール様の恋人を失った嘆きは深く、人々の思惑通りにはいきませんでした。彼は世界どころか、全てに興味を失い姿をお隠しになられました。」


侍女が、唇に紅を差してくれる。綺麗にしてくれているのに、気持ちは沈んでいくばかりだ。


Γ食べること、泣いたり怒ったすること、眠ること、生きることさえ興味を無くして、ただただ虚ろに命尽きるのを待ち続けていたそうです。」

Γどのくらい、そうしていたのですか?」


銀のイヤリングを、耳に付けて聞いた。


Γおよそ四千と九百年ほどです。」


それは、シノールの寿命の大部分だ。そんな途方もない時を一人苦しみ生きるなんて、拷問でしかない。


Γ……シノール様の恋人は、死の間際、幸せに生きるよう彼に言ったそうです。ですが、どうして幸せでいられるでしょう。残酷なことに、その言葉のためにシノール様は生きるしかなかったのです。どんなに生きることが苦痛でも。」


長寿であることは、人間には羨ましいことかもしれない。

でも本当は辛いことだと、私はようやくわかった。


Γルーは、だから閉じ籠っていたんだ。」


親しくなった者は、どんどん歳を取り、時の流れの前に、あっけなく死の別れを迎える。どんなに辛いだろう。

私もそうだ。ずっと一緒にいたくても、千年近い寿命のルーを、私はいずれ残して置いていく。


Γ私は……」

Γミヤコ様、魔法使いと人間では生きる時間が違いすぎるのです。差し出がましい真似を失礼で言わせて下さい。あなたは魔法使い様がいずれ苦しむのを理解した上で、彼の傍にいたいですか?」


キツイ言われようだが、怒りは湧かなかった。自分がどんなに彼を知らなくて、バカだったかに気づいただけだ。


Γ……教えてくださって、ありがとうございます。私、考えて……みます。」


************


Γふうん」


私の姿を頭から足の先まで見て、ルーは機嫌良く唇の端を上げた。


Γ………」

Γ似合ってるな。」


ぱっと私の顎に指をかけ、ルーが唇を寄せてきた。私は、反射的に顔を背けた。


Γ…ミヤコ」

Γ……口紅、付くから」


胸がじりっと痛い。

ルーは不満げに私を見たが、それでも手を差し出してきた。


Γ行くぞ。」

Γうん」


私はその手を取らず、彼の袖を弱く握った。



次回波乱

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