祭のあと3
部屋の扉がノックされ、女性が入って来た。
Γ失礼します。ミヤコ様、今よろしいですか?」
30代位だろうか。
Γはい。」
私は夕方に祭に行くつもりで、頭痛を早く治そうと横になっていた。あれ、ルーは?
Γ魔法使い様が、奥様の頭痛を治すために薬をご所望でしたのでお持ちしました。あ、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。私は領主の娘イリスと申します。実家が祭で忙しく、嫁ぎ先より手伝いのため戻っております。」
そう言うとベッドサイドに盆を置き、油紙に包んだ粉薬を水と共に渡してくれた。
Γありがとうございます。」
早く治したいので、覚悟を決め薬を飲み干した。
苦いかと思ったら、甘みのある薬だった。
Γあの、ルー……彼はどこに?」
奥様なんて言われて、否定するのも別にいいかと思ったが、だからと言って夫とは呼べない。
Γ彼」が精一杯かな。
Γ今は、父に呼ばれて二人で話をしているようですよ。」
そう言って、イリスは私をじっと見ている。
Γミヤコ様、魔法使いは病気をしないと聞いております。頭痛がするということは、あなたは人間ですね?」
Γはい。」
別に隠すことでもなく、私は肯定した。するとイリスは顔を曇らせた。
Γあの方と、夫婦ではないのですか?」
Γ……違います。」
否定して、なんだか気持ちがモヤモヤした。
Γ………祭に行くのですね。」
私の枕元にある緋色の衣装を見つめて、イリスは盆を手に取った。
Γよろしかったら、着付けを手伝いますよ。夕方でも構いませんか?」
Γはい、助かります。」
せっかくだからおめかししたいと思うのは、女心だ。
Γ魔法使い様のこと、お好きなのですね。でも……平気なのですか?」
なんだろう?彼女は私を探るように聞いてくる。
首を傾げると、憐れみにも似た視線を受けた。
Γ長寿の魔法使いに、人間は添い遂げることはできません。あなたは…、残される魔法使い様のことを考えたことはおありですか?」
ドキリとした。考えないようにしていたことを抉り出されたと感じた。