祭のあと2
Γ早く」
Γ父上」
Γいきなさい」
逃げろというのか?それとも、生きろと?
血と炎の匂いの中、赤子の泣き声だけが殊更大きく響く。
Γルルカ王を守りなさい」
シャンハが、リュカの腕に守られている赤子に視線を向けた。
この赤子の父は先程死んだ。この子が、新たな王だ。
部屋に飛び込んで来た幼い魔法使いを、また一人殺し、リュカの父であるシャンハは、もう振り向かなかった。
Γ父上、私も最期まで!」
Γ知っているのだろう?」
父に近付こうとして、歩みを止めた。
Γやはり、父上も……」
よく似た親子だった。姿も備わった魔法も。
Γリュカ、私はここで死ぬ。予知を視たなら知っているはず。」
また一人、シャンハの攻撃に小さな魔法使いが倒れた。
…ぴちゃ
仲間の血溜まりを踏み、幼い少年が翔んできた。
赤い瞳を煌めかせ、いっそ美しいほどに冷淡な笑みを浮かべたその魔法使いに、リュカとシャンハは息を呑んだ。
Γあなたが、ルシウス?」
強烈な威圧感が、子供から発せられる。唇は弧を描くのに、瞳には何も映っていない。
この少年が、未来の最高の……
シャンハが急速に最大限の結界を構築させていく。リリアの力よりも、少しだけ強いシャンハの魔法。どんな魔法使いでも破られないはずだった。
Γさあ、早く!」
Γ……父上」
必ず王の血脈を守り、この国を再興させ、そしていつか世界を!
リュカの想いを背中で聞いて、シャンハは小さく頷いた。赤子の王を、しっかりと抱きリュカは翔んだ。
翔ぶ瞬間、少年がシャンハの結界を破った。
Γルシウス、いつかあなたは我が身を滅ぼす……」
最期のシャンハの予言、リュカがその意味を知ったのは、半世紀後のことだった。




