祭の最中7(ルー視点)
Γおい、戻ってこい」
Γうう…」
真っ赤な顔で、ミヤコがとろんとした目で俺を見上げた。目が合うと、急に笑い出す。
Γふふっ、ふふふ」
Γ……」
ミヤコの指が、俺の服の軽く開けた襟元をたどる。
Γねえ、ルー…私の歌、どうだった?」
しなだれかかって、気だるげにミヤコが聞く。
Γ……なかなか上手かったな。な、習ったりしてたのか?」
Γふふふ、わたし、中学のころ、がっしょうぶにはいってたのお」
そう言って、俺の首をミヤコの指が妖しくたどり、そこに顔をくっ付けてきた。
熱い吐息を感じて、自分の体温も跳ね上がる。
Γか、歌手にでも…なりたかったのか?」
酔っぱらいの誘いになど乗るものか。平静さを装い、何喰わぬ顔で聞く。
Γ…ううん」
ゆっくりと体を起こして、俺の肩に手を置いたミヤコが、耳元で囁く。
Γわたしね、ははおやに、なりたいのよ、うふふ」
Γみ、やこ…?!」
わざとやっているのかと思うほど、ゆっくりと絡めとるように煽ってくる。
Γたくさん、あかちゃんうんでぇ、にぎやかなかていを、つくりた…ふふっ」
ミヤコの囁きと吐息が、ぞくぞくと背中を駆ける。
Γ……はあ…」
Γ………」
Γふふふ…、だいすき」
Γ……………………………」
せっかく罪多きこの俺が、多大な努力と忍耐と膨大な精神力によって抑えていたというのに……
俺を獣にしたいのか?
知らない、知らないぞ
Γふえ?」
ドサリとベッドに転がされたミヤコが、目をぱちくりと瞬く。
Γ………………ミヤコ、魔法使いの子を産んでみないか?」
Γ……ほえ?」
今更、そんなキョトンとした顔をしても、もう遅い。
組み敷く俺をぼおっと見上げるミヤコが、赤みの増した唇を少し開けた。誘われるように、唇を寄せた。
Γ酒くっさ…」
俺の唇を手で塞いで、ミヤコが顰めっ面をして呟いた。
Γこの!…お前もだ」
Γむ、ぬ……!?」
塞ぐ手首を捉えて、無理やりキスをしたら、変な呻き声を洩らした。
勝手なやつ!翻弄される俺の身になれ。
しばらくすると大人しくなったので、一旦唇を離した。
Γ……ミヤコ、おい」
身を任せるのかと、期待した俺が愚かだったのか。
Γ……くう…すう…むにゃ」
眠りこけるミヤコに、恨めしげな視線を送る。
Γ……戻ってこい」
Γすう…むにゃ」
なんて悪女だ!ひどい女め!
Γ……まったく!」
乱暴に布団をかけて、しどけなく横たわるミヤコの体を隠して、俺は距離を取った。
そのまま部屋から逃げるように立ち去る。
茹だった頭を冷やさねば。
とてもじゃないが、同じベッドで眠る自信がない。床で、床で寝るしかない。
薄暗い廊下を歩き、階段の踊り場の壁に凭れて息をつく。
酔っぱらっていたが、あいつの気持ちは本当だった。家庭を持つのが夢なら、それは叶わない夢じゃない。
Γ……ミヤコ」
あいつに、ちゃんと聞いてみてもいい。
照れる顔が見たくて、冗談で肯定してみたけれど……
Γ俺は、本当にそうしてもいい。」
魔法使いの夫婦になることを。
次回、最大の壁