すぐにサヨナラ?
ルーの話によれば、この世界の人たちは金髪や赤い髪、青や緑の瞳が一般的らしい。黒い髪で黒い瞳は、魔法使いにしか出ない色合いだそうだ。
「魔法使いって、どのくらいいるの?」
ルーの長い指でずっとこめかみを触られて、なんだかくすぐったくて姿勢を直して聞いた。
「二人。」
「二人?」
思わずおうむ返しで聞き直した。もっと大勢いるかと思っていた。
「意外だったか?」
「うん。なんでそんなに少ないの?」
「…なぜだと思う?」
笑みを浮かべて私を見る彼に、どきりとした。
冷ややかな笑いだった。口許は笑っているのに、目は冷たくてまるで私を咎めるようだった。
これ以上の問いを許さない雰囲気に、私は言葉を呑み込んだ。
「分からないな。なぜあの男は力の無いお前をわざわざ召喚したのか。」
嘘のように冷たさを消して、ルーは不思議そうに言った。
肩まである私の髪を見つめ、こめかみにある指を滑らせて触ろうとして止めて、また元の場所に指が戻った。
長いことイケメンの男の人に触れられている私のメンタルも、そろそろ限界だ。
会ったばかりの人に、勘違いしそうになるほど顔に触られて、いい加減心臓にも悪い。
だからこの質問だけを最後に指をどけてもらおう。
「召喚できるなら、その逆はできるの?」
話の途中で、ふと思い立った考えだ。
もしかしたら…
私は期待を込めて、ルーの顔を無意識に至近距離で凝視した。
「……ああ。」
薄い唇が、少しわなないてから音を発した。
「ホントに?!」
「ああ。」
「あー、良かった!!」
「うるさいぞ。」
嬉しくて声を上げた私を、急に不機嫌になったルーが睨む。
「ルー!お願い、私を帰して!」
「…お前は知りたくないか?なぜあの男がお前のようなただの女を召喚したか?」
「帰りたいの!みんな心配してるから!」
両親も弟も、多くはないけど友人も、みんな仲が良かった。きっと私を捜している。
ガシッとルーの両手を両手で握った。
「うわっ!?」
「お願い、ルー!」
自らの額にその手を擦り付けるようにして、頼んだ。
「……わかった。」
うっとうしそうに、私の手から手を振りほどくと、彼はあさっての方を向いて溜め息をついた。
そこで、彼がこめかみに触れていないことに気付いた。でも了承してくれたのは、なんとなく分かった。
「ありがと!」
これまた日本語で喜ぶ私に、また指で触れて、ルーはとっても面倒で疲れるから、明日だと伝えてきた。
この世界のこと聞くだけ聞いて、結局帰してもらうのだ。私は勿論、異論はない。
ああ、でも折角知り合ったルーとまたすぐにお別れするのは、淋しいな。
「ありがとう、ルー。私最初に会ったのが、ルーでホントに良かった。」
笑って感謝を伝えたら、彼は無言で視線を逸らした。
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