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君と夏の恋を。


 初恋だった。

 海辺で育った私達は、幼馴染で。


 夏に実ったこの恋は、いつまでも続くと思ってた。


※※※


 中学の時に付き合い始めて、高校は別だった。

 彼は地元を離れる気はなくて、家業を継ぐと言っていた。


 私にはやりたい事があった。

 だから頑張って勉強した。


 お互いにそれで良いと思っていたはずなのに、私達はいつしかすれ違い始めていた。


※※※


 高校二年の夏に、私達は別れた。

 嫌いになった訳じゃなかった。


 でも、このままでは嫌いになってしまうと思った。

 夜の海辺に二人で座り、泣き崩れた顔を上げれない私は、嗚咽を噛み殺していた。


 彼は言った。


「これで終わりにしよう」


 日焼けした彼との最後の口づけは、しょっぱかった。


※※※


 高校を卒業して、私は地元を離れた。

 大学ではそれなりに友達も出来たし、付き合った人もいた。


 でも、何か違った。

 その人とも、大学卒業と同時に別れた。


※※※


 社会人になって三年が過ぎた。

 やりたかった事の筈だったのに、私は連日の残業で疲れていた。


 そんな時に、母親から電話があった。

 盆の帰省はどうするのか。


 私はふと、彼のことを思い出した。

 どんな人になってるんだろう。


 私は、盆の休暇に地元に帰った。


※※※


 昼、海に足を運ぶと、昔の友達にあった。

 彼女には、子どもが出来ていた。


 懐かしさで盛り上がり、彼の話を聞くと、居場所を教えてくれた。

 今は彼女の旦那さんの仕事仲間らしい。


 彼は昔言っていた通り、家業を継いで漁師になっていた。


※※※


 久しぶりに見た彼は、記憶にあるより頬がすっきりして、焼けた体もますます引き締まっていた。


 彼は昔と変わらない笑顔で、私を迎えてくれた。

 仕事が終わって、夕涼みがてら会う約束をした。


 あの頃の話になると、初恋だったと、照れ臭そうに言う彼の横顔。


「でも俺たちは、きっと、友達くらいで丁度良かった」


 私はその横顔に、ポツリと言葉を落とした。


「あの頃は、きっとそうだったと思う」


 彼は驚いたように私を見た後、何かを考えていたようだったけど、何も言わなかった。


※※※


 私は、それから二年経って仕事をやめた。

 彼が冬に、会いたいと連絡をくれて、今度はわざわざ私のところに来てくれたのがキッカケだった。


「疲れてるように見えた」


 私と彼は色々な話をして、私は色々なことを考えた。


※※※


 引っ越しを終えて、私は散歩に出た。


 地元の潮風と、晴れ渡る青空と。

 夏の気配と、騒がしくお節介で、気軽に声を掛けてくれるご近所さん。


 地元のそんな雰囲気が、改めて好きだったと感じる。

 私のそんな思い出の多くが、彼と共にあった。


 海辺を歩き、人気のない辺りでサンダルを脱いで、海に足をひたす。

 海開きはまだ先だけど、夏の気配を感じるこの季節が私は好きで。


 冷たい水が頭の芯を痺れさせる。


「何をしてるんだ?」


 気付けばショートパンツが浸ってしまうくらいの深さまで向かっていた私に、後ろからしゃがれた大声が掛かる。

 振り向いて見ると、彼が居た。


 私は不意に吹いた風に飛び掛けた麦わら帽子を抑えて、笑顔で彼に手を振る。

 

「冷たくて気持ちいい」

「良いから、戻ってこい!」


 何をそんなに怒っているのかよく分からないけど、私が戻ると、彼は私を抱きしめた。


「……苦しいよ?」

「そのまま向こうに行っちまいそうに見えた」


 そんなバカな事があるはずないのに。

 私は彼の頬に手を添えて、その顔を見上げる。


「あの時、私はお別れも言えなかった」

「そうだな」

「でも、もう一度……改めて、始めても良いかな?」


 彼はようやく、ここがどこか気付いたようだった。

 彼にとっては今更だろうけど、きちんとしたかった。


「好きだよ。今なら、幾らでも言える」


 私は嬉しくて、今度は自分から彼の首にしがみついた。


「私も、愛してる」


 これからは、二人でまた、新しい思い出を作る。

 彼と結ばれるために、私はここに帰って来たのだ。


 ―――あの夏の恋を、私はようやく取り戻した気がした。

 

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