うちの嫁子様
うちの嫁子様は中々に面白い。
それはもう、二児の母とは思えないほどにお茶目さんである。
朝起きて、姉子(4歳)、妹子(1歳)の可愛い二人のお子に朝食を食べさせた後、嫁子は言った。
「うち、おにぎり食べたい」
「はいよー」
「のりも欲しいー」
「冷蔵庫の中にのりがない。諦めよ」
「のりがないなんて! 父の愛が足りないからや!」
「なんと理不尽な。買って来てないのはおぬしであろう!」
にへへと笑って誤魔化した後、嫁子は言った。
「あ、冷蔵庫の中のケーキはとっとの分よ?」
どうやら昨日、お義母様と共におやつに食したらしい。
そのチョコレートケーキを嫁子がおにぎりを食べている間に食してみる。
中々に美味である。生地にフルーツビーンズ的な何かが練り込んであり、ふんわりと香る。
それを食し終えると、嫁子の視線を感じた。
ひどく悲しげな顔である。
「どないした?」
「けーき、一口くれんかったー……。やっぱりその程度の愛情なんやー……」
「え? 昨日、自分のぶん食べてないんか?」
「ううん、食べたけど」
こやつめは……。
しれっと言いながらやはりにへらと笑う嫁子。
八重歯が可愛いからって、何でも許されると思ったら大間違いであると、一度思い知らせてやらねばならぬ。
「姉子も食べたい!」
「姉子はさっき朝ごはん食べたでしょ!」
育ち盛りさんはお腹が暴食の胃袋と化している。
まぁ制限しないと小太りさんになっちゃうからね、食べ過ぎはダメよ。
「いもこ、たべぅー!」
「妹子もさっき食べたでしょ! めんめ!」
嫁子の膝ににじりより、もう一人の暴食さんが可愛く訴えておる。
そして結局一口ずつあげる嫁子。甘い。
もっと私のように厳しく接しなさい。
「とっと、何にやけてるの?」
「べつにー。おにぎりおかわりいる?」
「太るでしょ!」
嫁子は体型を気にしすぎである。
別にふとましくなっても気にしないのだが、あまり標準をオーバーすると服がないそうな。
そんなこんなで家族で、だらりんとテレビを見る。
『いないいないばぁ』、Eテレの子ども番組を観ていると、嫁子が突如こんな事を言い出した。
「おふろすきーなのにトイレの話をだついーじょと踊ってる! おかしい!」
「何で?」
「だってお風呂にトイレないやん!」
「ユニットバスなんじゃね?」
「……!! そっか! ならしゃーないね」
衝撃を受けた後に納得した嫁子だが、何がしゃーないのか全く分からない。
嫁子の許しは必要ない気がしないでもない。
仕事まで暇である。
嫁子が茶碗洗いを始めたが、まだ掃除機をかけるのは億劫なので、何気なく呼び掛けてみる。
「ぷりてぃーきゅーてぃー姉子ー」
「はーい!」
「ぷりてぃーきゅーてぃー妹子ー」
「あい!」
「ぷりてぃーきゅーてぃー嫁子ー」
「とっとにプリケツって言われた! お尻おっきいって! 心が傷付いた!」
相変わらずのネガティブ曲解に思わず笑う。
「ぱりーん!」
それは心が砕ける音らしい。
「ちなみにそんな事は言ってないぞー」
今日も平和だ。
おっと、掃除機を掛けていると、お義母様が嫁子の妹と共に車でいらっしゃった。
嫁子らとどこぞにお出かけらしい。
嫁子がごそごそと着替え始め、子らはお義母様に戯れに行った。
「とっとー?」
「はいよー」
着替えを終えた嫁子が言うのに振り向くと、んー、と顎を差し出される。
「……どう考えても、今この場所はお義母様から丸見えなのだが」
「今更? んー♪」
「……」
そして仕事に出向くと、嫁子からメールが来た。
「冷凍ポッキー食べたい」
「凍らせたのなんか売ってる訳なかろうw」
「凍らせポッキー売ってないなんて品揃えが悪い!」
「全国の99.9%の店は品揃えが悪いな」
「凍らせポッキーを食べないとやせ細ってしまぅ……」
それに返信する直前に、さらに追加でメールが入る。
「痩せたいから耐えるわ」
わざわざ文面を分けていう事でもない気がするが。
「ポッキー買って帰って凍らせといたるわな」
「耐えるって言ってるのに! 嫁が千と千尋の大根様みたいになったらどーするの!?」
「もう嫁ってるから大丈夫じゃね?」
仕事を終えておうちへ帰ると、姉子が突撃してきた。
「とっとー! びゅんってしてー!」
「おー」
両手で持ち上げてぐるぐる振り回すと、妹子も寄って来た。
「いもこも、すゅー!」
「ほいほーい」
姉子同様に振り回すと、やっぱり茶碗洗い中の嫁子が言った。
「とっとは、娘ばっかりかまって、うちにお帰りのちゅーもしてくれへん!」
恨みがましい目である。
そろそろ付き合った時から数えて十年になろうというのだから、落ち着くと良いぞ。
まぁ落ち着いたら面白くなくなるかも知れないので、それはそれで嫌な気もする。
我が家の嫁子は、かくもお茶目なのである。