貴方への恋文
拝啓 大好きな貴方へ。
雲ひとつなく晴れた空に、ふと貴方の笑顔を思い出し、こうして文をしたためております。
今日と言う良き日を、貴方はいかがお過ごしでしょうか?
真面目な貴方の事ですから、お休みもせずに立ち働いておられないか、とても心配になります。
覚えておられますか?
貴方は一度、私の手紙についてこう口になさいました。
『君の手紙を読むと、いつものんびりとしているように感じられて、こちらまでほのぼのするよ』なんて。
そう言われた時。
私はまるで貴方に、私が何も考えずに過ごしているようだ、と言われた気がいたしました。
当時は、なんて失礼な人だろう、と憤慨したものですが、今となっては全く貴方のおっしゃる通りだと思えます。
このような気質の私ですから、きっと貴方と離れても、どうにかこうにかやって行けたのでしょう。
あの頃、子どもたちはまだ幼くて。
でもその後、あまり苦労という気持ちを覚えた事もなく過ごせた事は、我ながら僥倖と思います。
子どもの成長を近くで見られなかったのを、貴方は残念に感じておられますか?
子ども好きな貴方には、さぞ辛かっただろう、と私は思っているのですが。
あの子たちは立派に育ちましたよ。
私の手で育てたとは思えない程、しっかりと育ちました。
貴方の気質を、受け継いだのかも知れませんね。
私もじきに貴方の元へと向かいますが、貴方は、年老いた私をどう思うでしょう?
若い僕にはもう釣り合わないな、などと仰らないで下さいね。
そうなれば、私は生まれ変わらなければなりません。
また成長して貴方と出会うまで、幾年も待たねばならなくなります。
貴方は待っていて下さってますか?
もしかしたら、一人さっさと何処かへ行ってしまわれているかも知れませんね。
待つのが嫌いな、貴方の事ですから。
この手紙も、届かないでしょうか。
貴方は足がとても早くて、私は追いつくのに、いつも駆け足をしなければなりません。
でも、あまりに駆け足をすると、貴方はそれも怒るのです。
そんな我侭な貴方が、私が着いた時にもし何処かへ行ってしまっていても、まぁ、怒りはしませんと、約束してあげます。
妻として。
これでも、貴方の事を理解しているつもりではいるのです。
待っていてくれなかったら寂しいかな、という想いも少しはありますが。
ほんの少し、だけですよ。
気まぐれに私が拗ねてみせると、貴方はいつも狼狽えてしまわれますから、先に言っておきます。
大丈夫ですよ。
私はいつも通り、のんびりと追いかけることにします。
大好きな貴方。
もし生まれ変わっていたとしても。
私も生まれ変わる事になっても。
願うなら、貴方ともう一度、なるべく早く出会いたいと、私はそう思っております。
今でも、貴方をお慕い申し上げる私より。
敬具