バカと幼なじみとクリぼっち。
「おー、寒い寒い」
言いながら一人暮らしをしている俺の部屋に入ってきたのは、この場にいるはずのない大バカ野郎だった。
「……お前、何しにきた」
「おいおい冷たいことを言うなよ親友どの。麻雀やるってーから、いそいそと来たのによ」
問いかける俺に目も向けないまま指先をこすり合わせるバカは、小脇に小さな紙袋を抱えていた。
それをジッと見つめてから、俺と一緒にコタツに入っている連中の顔を見回す。
「どこからコイツに情報が漏れた」
今日は徹夜麻雀が俺の家で開催されている。
問いかけに、同じようにクリぼっちな面々が顔を見合わせた。
「教室じゃね?」
「喋ってた時に後ろにいたからなー」
「あー、そういやチラチラ気にしてたの覚えてるわ」
気づいてたなら言えよ。
そう思いながら立ち上がった俺は、バカの抱えた紙袋を指差しながら、マフラーを取ろうとしているそいつに近づいた。
「それはなんだ?」
「ああ、これ? なんかミオがくれた。クリスマスプレゼントだとよ」
全く気にもしていない口調で言いやがるが、それはコイツのアホみたいに可愛い幼馴染みの少女の名前である。
ビキビキと青筋を浮かべながら、あえて無感動に低い口調で言ってやった。
「ミオの今日の格好は?」
「あ? なんか新品っぽい桃色のコートと、珍しく化粧とかマニキュアとかしてたな。一緒に買い物してたんだけど、麻雀行くって言ったらこれくれた」
へへ、と紙袋とマフラーを差し出して来るバカに、俺はため息を吐く。
別にミオとこのバカは付き合っているわけではない。
買い物に行ったと言う話や、家に行ったと言う話を日常的に聞かされるとしても、付き合ってはいないのだ。
だが、俺は今日のことを知っている。
何が起こる予定だったかを、だ。
「おい、バカ」
「なんだ、親友どの」
俺は、バカが靴を脱ぐために差し出した紙袋を丁重に取り上げると、その体を軽く押しのけて玄関のドアを開けた。
「どうした?」
バカの問いかけには答えずに体を戻した俺は……そのまま、そいつを外に蹴り出した。
「いてぇ! 何すんだよ!!」
「何してんだはこっちのセリフだこのクソ野郎!!!!!」
抗議するバカの顔にマフラーを投げつけ、紙袋を丁重に腹の上におくと、その前にヤンキー座りした。
そして、廊下に倒れているバカの顔を指差す。
「おい、コラ」
凄むと、バカはようやく俺がキレていることに気づいたようで、頬を引きつらせた。
「な、なんすか?」
「いいかバカ。テメェがやるべきことは、今から速攻ミオんとこ行って、なんでもいいから謝って、今すぐに飯に誘うことだ。いいか。やらなきゃマジで殺す」
「え、だって今別れてきたとこ……」
「よし、死ね」
「行ってきます!!!!!」
俺の腕っ節とやると言ったら本気でやることを知っているバカは、即座に立ち上がった。
そしえダッシュで消えて行く。
あいつらの家は、ここからそう遠くない。
雪の降りしきる空を見上げてから、俺はため息を吐いて中に戻った。
「お疲れ」
「まだだろ」
俺はスマホを取り上げて、ミオに電話をかけた。
案の定、泣いていた。
「バカは今、そっちに行った。あいつがバカなのはお前が一番知ってるだろうが。謝ったらとりあえずなんも言わずに待っとけ。飯誘うと思うから、誘われたら受けるのも断るのも好きにしろ」
『……ぐす……うん、いつも、ありがと……』
「そう思うなら、さっさとひっつけ。てか、そもそも怒れ」
優しすぎる。
なんでミオがあのバカを好きなのかが、俺には今をもって全く理解できない。
俺が電話を切ると、麻雀のメンツの一人が黙ってタバコを差し出して来た。
ちなみに。
この麻雀大会の名前は「クリスマスの集い〜ぼっちーずと失恋野郎の徹夜麻雀〜』と言うらしい。
ミオがようやく今日告白するというから、俺がお膳立てまで全て整えてやったというのに。
あのプレゼントの中身は、俺がミオに相談されて一緒に選んだものだ。
「いやもうなんか、ほんとお疲れ」
「最後の最後まで災難だよな」
「もう取っちゃえばいいんじゃね?」
タバコに火をつけた俺は、首を横に振りながらコタツに潜り込んだ。
「それはしねぇ」
「「「だと思った」」」
その分かりきっているとでも言いたげな評価に対しても、ため息しか出なかった。