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羽より軽い彼女。


 昼休みは、学校の非常階段が彼女の居場所だ。


 綺麗な金色に染めた肩口程度のロングヘアに、日本人離れした白い肌と人形のように可愛らしい顔立ちの少女。


 もう夏服の季節で、彼女は華奢(きゃしゃ)な体を半袖のブラウスと膝上のプリーツスカートで覆っている。

 階段の下から覗きこんだらショーツが見えそうだと思いながら、サクヤはリオの後ろでタバコの煙を吐いた。


 不意に、彼女が声を上げる。


「ねぇ、サクヤ」

「ん~?」


 どこか気が抜けたような、まるで甘えているようにも聞こえる声に、サクヤは白いうなじを眺めながら返事をする。


「体に悪いから、やめなよー」


 両手でいじっているスマホの画面から目も上げないまま、彼女は言う。


 声と同様に常から気だるげな顔をした彼女は、遊び慣れているという噂がある。

 今の格好もブラウスは第2ボタンまで開いていて、学年を示すリボンは緩く首に巻かれているだけだ。


「リオがちゅーさせてくれたら、やめてやるよ」

「いーよー」


 別に付き合っている訳でもないサクヤの要求に、リオはあっさり答える。


 こういう事も、初めてではなかった。

 サクヤはタバコの先を階段に押し当てて潰し、火を消してから彼女の頭を撫でた。


 さらさらとした髪の感触とともに、リオが上を向く。


 上下逆さになった、ぼーっとした美貌。

 桜色のくちびるが軽く開いており、仰向けになった事で服の隙間から覗く白い胸元に対して、触れたい、という強烈な衝動を覚える。


 その気持ちを抑えつつそっと彼女にキスを落とすと、リオが眠たげな笑みを浮かべた。


「約束だよー? タバコ、やめてねー?」

「今だけな」

「あー、うそつきだー」


 リオは特に気にもしてなさそうに、顔をスマホに戻す。

 手持ちぶさたになったサクヤは勝手に彼女の毛先を触って遊びながら、話しかけた。


「なー、今日ガッコ終わったら、なんか予定あんの?」

「駅前でトモダチと会うー」


 男だろうか、と少し胸が痛んだ。


 お前も遊ばれてんじゃねーの? と、クラスの連中は言う。

 そして大体、俺も遊んでんだよと、言い返す。


 でも本当は、遊ばれてても良いか、と思えるくらい……彼女に夢中だ。


 俺の事どう思ってんのかな。

 考えていても分かりはしない事を考えながら、彼女の滑らかなうなじを撫でる。


「くすぐったいー」

「リオ」

「何ー?」


 肩をすくめて、でもやっぱり振り向かない彼女。

 どーでもいいんだろうなー、慣れてるんだろうしなー、と思いつつ出来るだけ軽い口調で聞く。


「今、付き合ってるヤツいんの?」

「いないよー」


 いないらしい。

 なら、と軽く唾を飲んでからサクヤは続けた。


「……じゃ、俺と付き合わね?」

「いーよー」


 即答で言われて、サクヤはため息を吐いた。

 そして、こっちを見ないリオのおでこに手を添えて、軽く力を込める。


「なぁ、こっち見ろよ。俺、割と本気だ……ぞ?」


 先ほどキスした時のように上向かせたリオは、表情はさっきとまるで変わらないのに、顔を真っ赤に染めていた。

 思わず黙り込むサクヤに、へへ、と気の抜けた笑みを見せる。


「あーあー、バレちゃったねぇ。今、私真っ赤だよねー」

「えーと……なんで?」


 サクヤはそこでようやく、予想外のことに停止していた思考が回復してきた、が。




「私、サクヤのこと好きだもーん」




 とびきりの笑顔で言われて、しばらく固まってしまった。


 好き?

 誰が?

 誰を?


「そ、んな顔赤くするほど、恥ずかった?」


 言われ慣れていると思ってた。

 だって、何言ったっていつも、スマホいじってサクヤの方を見ないから。


 でもその理由も、すぐに判明した。


「顔はねー、ちゅーした時は、いつもだよー」

「ち、ちゅーくらいで?」

「私、サクヤ以外の人とちゅーした事ないもーん」

「え………………………? マジで?」


 それなら、なんで、いつも。

 すぐに、いーよー、って。


「サクヤもさー、勘違いしてるけどさー」

「え、うん」


 そんなサクヤの顔を見て何を思ったのか、リオが少しイタズラめいた、でも少し悲しそうな笑顔で、仰向けのままサクヤの頬に手を添える。




「私のちゅーは、誰にでもあげるほど軽くないよー?」




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