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第四話 動揺



 すぐにまた、馬蹄の音が迫ってきた。

 もういや!

 


 「こちら、いずれの牛車か! 当方はウッドメル家である!」


 顔を上げた。

 やっぱり逆光で見えなかったけど、その声。


 「ジェームス・シスル?」


 「ご存知で!?……いずれの家の侍女どのですか?」



 ジュアン様が助けに来てくれたんだ……。


 少しだけ、ほっとした。

 ジェームスが声を穏やかなものに変えたことを感じられるぐらいには。


 リタも落ち着いたみたい。

 「誰が侍女ですって!? こちらクロイツ家の姫君、エレオノーラ様です!」


 いまそんなことに怒っても仕方無い。

 あたしだって分かるわよ。


 それなのにジェームス・シスルったら。


 「まことに失礼をいたしました。平にご容赦いただきたく」


 パニックにならないように、気を使ってくれてた。

 しっかりしてるのね。この緊急事態だってのに、声を荒げたりしない。


 「して、何が起きたかご説明いただけますか?」


 また馬の音。

 びくっとなる。


 「ご安心ください。ウッドメル家とミーディエ家の衆です」


 すぐにジュアン様と、リキャルドが顔を出した。

 切り裂かれた蔀の向こうに。



 良かった、助かったんだ、あたし……

 

 そうよ!

 「クリスティーネが! あたしたちの身代わりになって! 人質だって、連れてかれちゃって!」


 すぐに背を翻したジュアン様。

 助けに行ってくれるの!?


 って、何してるのリキャルド!

 その馬鹿力でジュアン様を引き戻したりして……


 「俺が出る。ジュアン、お前は姫君のおそばに」


 「ジェームス以上に速い男はいない」


 「俺には貴重な現場仕事だ。お前は後方で、『貴族にかかわる』仕事をする必要があるだろう?」


 この非常時に、最低!

 睨みつけたら、リキャルドが笑みを返してきた。


 ……あたしも最低だ。

 クリスティーネが危ないのに、安心しちゃって。

 ジュアンさまが側にいてくれることが、嬉しくて。



 「時間が無い。任せたぞ、ジュアン!」


 騎馬の集団が駆け去って行ったけど……。

 

 また馬!? 馬車!?

 今度は何!?


 すぐ近くまで来てるのに、どうして止めてくれないの!?


 「エレオノーラさん!」


 テレジア!?


 「ごめんなさい! あたしのせいで! お父様に話をしたら、これは南嶺の賊をつかまえるためのニセ情報だって! 大丈夫?怪我は?」


 テレジア、あなた……。

 手に、ほうきを持ってる。たぶん他に思いつかなかったんだ。

 それに頭。

 鉢金のつもりなんだろうけど、それ、鉄輪よ。

 それじゃ丑の刻参りじゃない……。


 どうしよう、涙が止まらない。


 「ありがとう、ありがとうテレジアさん」

 

 「良かった、怪我が無くて。ほんとうに良かった」

 

 テレジアの馬車に乗せられても、ずっと大泣きしてて。

 近く……五緯大道沿いにあるメル館に連れて来てもらって。


 やっと泣き止むことができた。

 あまりにも綺麗なお姉さんが出てきて、びっくりしたから。


 「アエミリアと申します」


 お名前だけは、伺っていた。

 すごい美人で、征北将軍と結婚されたって。美女と野獣っていう噂の。


 「ご無事で何よりでした」


 お茶をいただいて落ち着いたら、また思い出しちゃった。


 「クリスティーネ! クリスティーネを助けてください! あの子、あたしの身代わりにって!」


 アエミリア様が困っていた。

 メル家の侍女が私の腕を押さえた。

 

 「お気持ちは分かります、姫様。私どもも嬉しくなるほどに。しかしどうか、いまはお静かに。吉報を待ちましょう?」


 軽くつままれてるだけなのに、すごい馬鹿力で。

 でも、でも!


 「クリスティーネが!」


 後ろから、抱き締められた。

 あったかくて、安心できるにおいの、おばあちゃんだった。

 どうしてか分からないけどそれで落ち着いた。

 落ち着いたら、自分が情けなくなってきた。

 

 「ごめんなさい。あたしが悪いのに。あたしのせいなのに。皆に迷惑かけて」


 「良いのよ、好きなだけ泣きなさい。気持ちは分かってるから、ね? 大丈夫、きっと助かる」


 うん。

 ありがとう、おばあちゃん。

 きっと大丈夫、そうだよね。 




 「リキャルド・ド・ミーディエ様がお見えです!」


 ずかずかと入って来たリキャルド、挨拶もせずに周囲を眺め回していた。

 あいつがそんな無作法をするところなんて、見たことが無い。

 必死なんだ、リキャルドも。


 あたしと目が合ったと思ったら、笑った。

 いつもどおりのあいまいな、それでいてちょっと皮肉な微笑だった。


 「クリスティーネは無事です。ただ、助けられなかった」


 は? はい?

 どういう意味?


 尋ねようと思った、その時。



 「リキャルド、貴様!」


 リキャルドはジュアン様に殴り飛ばされていた。

 


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