表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第三話 離宮にて



 テレジアから手紙が来た。



 …………


 分かりました! エレオノーラさん!


 改装工事中の離宮に、退位された先代の国王陛下がおいでになるらしいのです。

 お好みに仕上げるべく、お庭を検分して指示を出されるためだとか。


 「おいでになるのは、今上陛下らしい」という情報もあります。

 お父様のため立派な離宮を建設すべく、担当者を励ましに来られるのだとか。

 

 でも、少し疑わしくはありませんか? 今上陛下もお忙しいでしょうし。

 やはり先代陛下なのだと思います。


 リキャルド様とジュアン様は、陛下の警護をされるのでしょう。

 近衛府所属の小隊長でも、微行おしのびに出られる陛下の警護を任されるのは、信頼の証。


 この間のひそひそ話は、その打ち合わせかと思われます。

 お二人が我がバルベルク家においでになったのも、建設担当の父とすりあわせをするためではないかしら?

 


 日程も、侍女が突き止めて(・・・・・)参りました。


 3日後の午後だそうです!

 

 ………… 




 「愛してる、テレジア!」

 

 これでライバルどもを出し抜ける!



 「何です、エレオノーラ様。気持ち悪い」


 「いいからリタ! この手紙を届けさせて!」



 …………

 親愛なるテレジア様


 情報、ありがとうございます!

 私は当日、離宮に出向きます。よろしかったらご一緒しませんか?

 …………


 

 情報をくれたんだもん。

 抜け駆けはいけない。プライドの問題よ。


 「どうされました? お餅を喉に詰まらせたみたいな顔をして」


 悪かったわね!

 こっちは必死でやせ我慢してるんだから!

 

 

 ……そんな覚悟も、すぐに溶けて消えちゃった。


 返ってきたお手紙に、「お誘いありがとうございます。でも私、その日はお稽古があって行けないんです。後でお話を聞かせてくださいね」って。


 いやーつらいわー。

 まるで出し抜くみたいじゃない?

 そんなつもり、一切なかったんだけどなー。

 


 そして当日!

 精一杯おしゃれして、朝から出発!


 「でも、牛車なんですのね? おしゃれしても見てもらえないではありませんか」


 どうせあたしはヘタレですよー。


 「いいじゃないの! そのほうが、奥ゆかしい姫君っぽいんだから!」


 「奥ゆかしい? わざわざ20kmもの距離を、垣間見に行く姫君が?」



 牛車の足は、トロい。

 離宮の近くに到着した頃には、もう午後になっていて。



 「あまり人の気配がしませんね」

 

 クリスティーネが言うのだから、たぶん間違いない。

 みんな離宮の中に入っちゃったのかな。



 「よし、帰り道に期待よ! 家まで送ってもらうんだから!」


 牛車でノロノロ、何時間もかけて。

 家につく頃にはもう夜ってわけよ。

 「お手数をおかけしました。よろしければ、我が家へ……」って。

 フヒヒ。


 

 「いえ! 馬が! これは……」


 クリスティーネ?

 さては出てきたのね! よーし。


 「いけません、姫様! 牛飼童!牛車を早く!」

 

 ちょっと、何よ!

 クリスティーネ!?


 驚いたけど、腰を抜かす暇もなかった。

 聞いたことがない音が、すぐに近づいてきたから。


 馬蹄の響きってのは、「ぽっくぽっく」って音だと思ってた。

 いま聞こえているのは、「ずどどどど、どかかかかっ」て。


 その音も収まってみれば、私にも分かった。

 包囲されてる!?


 「姫様、御免!」


 クリスティーネが、いきなり私の上衣を剥ぎ取った。お気に入りを。

 懐に手を突っ込んできて……懐剣を奪われた。


 「なに、何、なんなの!」


 クリスティーネが私とリタを背に隠したのは、ちょうど蔀が切り破られた時で。


 「こちらは、いずれの姫君か!」


 「下がりなさい、無礼者! クロイツ家と知っての狼藉か!」


 クリスティーネの声は、震えていなかった。

 声をかけた男のほうが、怯んじゃって。


 「いや、その……」


 しどろもどろになっていた男の後ろから、静かな声が聞こえてきた。


 「失礼しました。が、お詫びはいたしません。我々の逃亡のため、皆様には人質になっていただく」 

 

 「人質ならば、私ひとりで十分でしょう。後ろにある侍女どもは、取るに足らぬ小者。ここに置いていきなさい。さもなくば……」


 懐剣を抜く音がした。自分の喉につきつけてるんだ。


 「その紋章、確かにクロイツ家の姫君。見事なお覚悟、感服いたしました。……非礼無道はいたさぬこと、お約束いたします。さあ、こちらの馬へ」


 何が起きたか、分からなかった。

 ずっと震えてた。

 午後の傾いた陽射しを受けたクリスティーネの顔は逆光に照らされていて、何も見えなくて。


 でも、分かる。

 クリスティーネは、微笑んでいた。



 「感謝しています」


 その言葉だけを残して、目の前から消えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ