人生闇のち光
なんでもない暖かな木漏れ日の中、その少女は生まれました。
少女は三回闇を体験し、三回光へと出る喜びを感じ、三回温かさを感じました。
まずは一度目。それは暖かな闇の中。まだ光を知らない少女は、小さな光に導かれまぶしくも温かい光の中へと導き出されました。そして初めての広い世界に、心細くて泣きました。しかしすぐに自分は何かに包み込まれました。落ちてくる雫にうまく動かない頭を上げると、笑いながら涙をこぼす人がいました。その人はぎゅっと、ぎゅっと自分を包み込みました。それも初めてのもののはずなのに、少女はその温かさに自然と泣くことをやめました。
二度目で少女は闇に沈みました。今度の闇は冷たく寂しく苦しい闇でした。自分を含める、すべてにさよならしようと思いました。笑顔を忘れ、生きる喜びを忘れました。そして少女はさらに深い闇へと落ちていく中、何の予兆もなく落ちてきた雷のように闇を消し去る光に照らされました。少女は驚いて行きたくないはずの闇に、光に背を向け追いかけました。光はそんなこと知らぬとばかりに少女の周りの闇を消しました。戸惑う少女に光は無理やり光に慣れさせ、やさしく、温かくしてくれました。少女は温かさを、今度は胸で感じ、再び光を思い出しました。無理やりなそのやさしさにあきれ返りながら、いつの間にか笑っていました。
三度目、闇はまた訪れました。長い間光の中で過ごした少女は、忘れかけていた闇を必死に振り払おうとしますが、闇はしつこくしつこく追いかけてきました。そして見えないなにかにつまずいて、その隙に闇は少女を覆いました。今度こそ逃がさぬとばかりに、誰からの助けも無いと思えというかのように、すっぽり少女を包み込みました。少女はあきらめました。少女は再び、自分が冷たくなっていくのを感じました。その時でした。じわじわと浸透してくる冷たさの中で、温かさを感じました。どこからくる温かさなのだと少女は手を伸ばして周りを探しましたが、その温かさはすぐそばから、自分の胸からのものでした。意識したとたん、小さな温かさは体すべてを包みました。かつてのあきれるほど乱暴なやさしさ、今まで感じた温かな自分に向けられるたくさんの笑顔を思い出しました。それらは今手の届くところにないけれど、冷たくてさみしくて悲鳴を上げたら、そっと包み込んでくれる温かさが、いつの間にか自分の胸の中にあったんだと少女は知りました。
少女は自分を包む闇から逃げることをやめ立ち向かうことにしました。すると闇はあっけなく風船が割れたように分散し、風に乗ってどこかへと飛んでいきました。
闇から逃げてた時は気づかなかったけれど、外の光の世界は前に見た光の世界よりずっと広くて、果てが見えないほどでした。少女は光の中しばらく呆然として、ふと目の前に道があるのに気付きました。その先は見えず、どこに行きつくのかもわからなくて恐ろしかったけれど、少女は自身の胸にそっと手をおき、まっすぐと前を見据え、かすかにふるえる足で、しかし力強く、一歩を踏み出しました。
その生まれたての小鹿のような一歩は、かっこいいとは言えなかったけれど、少女を知るものは皆、笑顔でそれを見たでしょう。
少女はまた闇に飲まれるかもしれません。しかしそのたび何度でも、少女の胸の温かさがそれに打ち勝つことでしょう。
その少女の名は・・・
短編小説というかものすごく短編ですみません!
新しい環境で身も心も疲れていた中で友人に励まされてなんとなく思いついた話です。
これを読んで励まされた方がいらっしゃったら何よりうれしいです!
ちなみに「少女の名は・・・」の後は想像でお願いします!




