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歩とその周りの方々のお話

卒業 ~変わらない想いを抱いて~

作者: 青木ユイ

ほんと私アホみたいに恋愛ばっかり書いてる。頭が腐ったのかもしれない。


……内容はちゃんとしてるはずなので、安心してください。

(あゆむ)! 写真撮ろう!」


 振り向くと、親友の梨花(りんか)が手を振っていた。反対の手にはデジカメを持っている。

 梨花の隣には彼女の両親がいて、あたしはそこに走って向かった。


「いーよ、撮ろう!」


 今日は、卒業式。あたし、小山(こやま)歩は、今日小学校を卒業します。

 というか、もう、卒業式終わったんだけどね。



「歩、写真撮るか?」

「……あ、一翔(かずと)


 梨花と写真を撮ったあと、うろうろしていると、後ろから肩に顔を乗せられた。重い。

 してくる相手はいつも決まっている。叶田(かなだ)一翔。


「もう、あたしじゃなくて彼女と撮りなよ」


 あたしは一翔から少し離れて腕を組む。すると、一翔はにやっと笑って「もう撮った」と言った。

 一翔の彼女、高田(たかだ)志結(しゆ)は、私立の中学を受験して合格した。彼女も梨花のように、あたしの親友だ。

 小四の三学期に、仲良くなった。その前は恋のライバルみたいなのだったんだけど、声をかけてもらえて仲良くなったんだよね。

 そっか。そういえばあたし、一翔のこと好きだったんだ。やっと、その気持ち忘れられたんだね。


「歩? 写真撮らねえの?」

「え、いや、撮る」


 撮ってくれる人がいなかったので、デジカメを裏向きにして自撮りする。近い。なんかカップルっぽい。志結に悪い!

 あ、あたし……どきどきしてる。そんな自分が、まだいるなんて。忘れたはずなのに。志結を応援するって決めたのに。

 笑っていられるように、なったのに。二人で一緒にいるところを見ても、大丈夫になったのになあ……。


「ん、撮れた」


 一翔はデジカメの画面を見せる。ピースしたあたしたちが、写っていた。


「うわっ、ぶれてる。デジカメって普通ぶれないでしょ。一翔撮るの下手だね。いや、むしろ天才?」

「うるっせーなー。いーだろ別に。印刷してまた渡すわ」

「撮り直せよ」


 一翔は言いながら笑って、あたしの頭をぽんぽんと軽く叩いた。手、大きいなあ。

 卒業式用の服を着た一翔は、いつもより大人っぽく見えた。背も、高い。四年の時はあたしとそこまで変わらなかったのに。しばらく会っていなかったからかもしれない。


「あーゆむ。何話してるの?」

「わっ、志結」


 ぱっちりした瞳であたしを見上げるのは、志結。相変わらずさらさらの髪だ。彼女も梨花のように、あたしの親友。


「ごめん彼氏とっちゃって」

「ううん、気にしないで。てゆーか、一翔とは歩、同じ中学行くんだから話さなくてもいいでしょー。私と話してよー」


 志結は、案外甘え上手な子だった。これがびっくりだ。もっとしっかりした子だと思ってたのに、意外。

 彼女と一翔は下の名前で呼び合えるようになったらしく、余計カレカノ感がする。まあ、あたしと一翔は幼なじみだからもともと下の名前呼びだけど。

 志結はあたしのことも、下の名前で呼んでくれるようになった。もちろんあたしもこうやって志結と呼んでいる。仲良くなれた感じがして、今さらだけど嬉しかった。


「仕方ないなあ、志結は」

「えへへ。歩やさしー」


 そんなあたしたちを、一翔はにこにこしながら見ていた。彼はあたしたちが仲良くなれるように、お互いに「話しかけてみたら」と言っていたらしい。まさか、志結にも言ってたなんて……。

 でも、そのおかげであたしたちは友だちになれたんだから、一翔に感謝しないとね。


「志結、そろそろ帰るよー」

「あ、お母さん、お兄ちゃん」


 志結が振り向いた先には、美人な女性と中学生っぽい男の子がいた。志結、お兄ちゃんいるんだね。

 というか、二人ともめっちゃなんかすごい格好してる! さすがお金持ち!


「じゃあ、またね!」

「うん、ばいばい」

「またメールするな!」


 あたしと一翔は志結に手を振った。彼女の髪についたリボンが髪と一緒になびく。

 また、会えるよね。志結はやっぱりかわいいなあ、と思いながら、見送った。


「……さて、と。歩どうする? 帰る?」

「うーん、別にもうすることないし帰ってもいいけど、お母さんたちまだ話してるみたいなんだよね」

「あー、俺のとこも」


 あたしたちはそれぞれ親の方を見た。誰かと話している。

 しばらく考えていると、一翔が「そうだ」と手を叩いた。


「なに?」


 一翔を見上げながら聞くと、彼はいたずらを考えついた子どものようににやっと笑った。


「四年の時の教室、行ってみねえか?」


 その瞬間、あの頃のことを思い出して、にやけた。


「いいね、それ」


 あたしたちは二人で、四年二組の教室に向かった。



「うおおおお!」

「懐かしい!」


 ドアを開けて覗き、そして感動のあまり声をあげる。教室に駆け込んであの席に座った。


「俺、授業中よく後ろから歩の背中つついたりしてたよな」

「そうだよーもう。あんたのせいで何度怒られたことか」


 懐かしい、前後の席。この席の時に、あたしは失恋して、そして志結と仲良くなれた。

 この席が、あたしを成長させてくれた。一歩、大人に近づかさせてくれた。

 思い出の、席。


「……あたしね」

「ん?」


 今なら、きっと。大丈夫かな?


「一翔のこと好きだったんだ」

「……え?」


 あたしは、一翔の反応が面白くて、笑った。


「バーカ、昔の話! 志結と付き合った時にもう諦めたもん」


 ずっと好きだったから、伝えたかった。心の中に閉じ込めておくのは、もったいない気がして。

 すると一翔は、ぶはっと吹き出した。


「なんだよそれ。初耳!」

「当たり前でしょ。言ったことないもん」


 笑えるようになって、よかった。好きな気持ちは、まだ心の中にあるけど。

 よかった。本当に、よかった。


 変わらない想いを抱いて、あたしは今日、この場所を卒業する。それと同時に、きっと忘れられる。この気持ちも。

 まあ、忘れられなかったら、その時はその時で、また考えればいいよ。もう、笑顔になれたから。


「一翔」

「ん?」


 あたしは、笑いながら言った。


「これからもよろしくね!」

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― 新着の感想 ―
[一言]  三部作のフィナーレを飾るのに相応しい素敵なお話でした。  小学生の恋愛は可愛いですね。読んでいて心が暖かくなりました。歩ちゃんの歩む道が明るいと良いですね。  最後に、恋愛小説が書きたい…
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