漆・嵐の前の
果し状が届いた次の日。
「あ、六角君達おっはよー!」
ロッテ高校の朝には、いつもの光景が流れていた。教室の一角に凛、梨子、菓侖が集まっている。桔梗と襲はいない。九十九も欠勤らしい。
「………」
「………」
この2人を除いて。
この2人の空間だけ、空気が張り詰めている。学校そのものに対し、警戒しているのだ。
そんな2人に近付く猛者は__
「大変だねぇ。六角君達も」
菓侖が、2人に話しかけた。
菓侖に話しかけられても2人の周りの空気が緩むことは無い。
傍から見れば猛獣が兎を狩ろうとしているように見えるだろう。
「何が?」
ネルが警戒を緩めることなく菓侖に尋ねた。すると、菓侖はクスリと笑ってそれに答えた。
「何って、は・た・し・じょ・う!」
「っ!?」
彼女が知るはずのない言葉が、彼女の口からこぼれた。
果し状のことは桔梗にしか告げていないはず。それにマーブルとシリアルのことだ。渡されていたところを見られていたとは考えにくい。
(何故菓侖が知って__)
「何故私が知ってるのかって?」
頭の中を見透かされているような感覚にネルは顔を歪める。ポイフルは既に平常心を取り戻し、無表情だ。
「それは___」
菓侖は言いかけるとポイフルの耳に顔を寄せた。
「この情報屋マカロンに、知らないことなんてないから。なんてね、きゃははっ」
ポイフルの顔が驚愕に染まる。
それを確認するようにポイフルの顔を覗き込み、そしてまたクスリと笑うと、梨子達の方へ帰って行った。
「ポイフルさん!情報屋マカロンって…!」
至近距離にいたネルにも聞こえていたようだ。
「……ああ」
情報屋マカロン___裏社会で知らぬ者はいないと言われるほど有名な凄腕情報屋。どんな依頼も一瞬でこなす、天才ハッカーである。その分雇うには相当の金額を要し、また彼女自身が気分屋なので仕事にムラがある。しかし最近はその気分屋も身を潜めているらしい。
昔、ポイフルが父の行方を調べる為に頼ったのがこのマカロンだ。これにより、ポイフルは桔梗などの極道と関わることになったのだ。
(まさか、こんな身近にいたとはな……)
ポイフルは菓侖に鋭い視線をやった。
(今度お礼にお菓子作って持っていこう)
なんて呑気なことを考えながら、ポイフルは平和な学校生活を送ったのだった。
「もう少し」
「もう少しの我慢だ」