陸・仲間
___睦・仲間___
果たし状を受け取り、桔梗に連絡をしたポイフルの行動は早かった。
ネルに同じように果たし状が届いていないか確認し、今後のことを話し合おうとネルに電話をかけた。
「もしもし、ネルか?」
『はい、そうです。こちらに果たし状が届きまして…』
『やはりネルもか…』
「ネル“も”ということは…」
『ああ』
「…学校であの人が言っていたことを、したほうがいいのでしょうか?」
『九十九先生か…。そうだな』
「少し…あてがあります」
そう言うネルの口は弧を描いていた。
ネルはポイフルとの電話を終え、とある家に向かって歩いていた。隣のクラスの知り合いの、斉藤小梅と斉藤小唄の家だ。2人は双子で、同じ服を着れば外見だけでは見分けがつかない。
ポーン
「はいはーい」
ネルが隠しインターホンを鳴らすと中からパタパタと足音が聞こえてきた。
ガチャリ
「ああっ!ネルじゃん!ひっさしぶりぃ〜!」
「ああ。久し振り。だがこそんな場合じゃないんだ」
扉が開き、きらびやかな服に身を包んだ小唄が出てきた。ネルの姿を確認するとパッと花が咲いたように笑った。しかしネルの言葉で真面目な顔付きになる。
「ふうん…?……とりあえず、ちょっと待ってて」
そう言うと小唄はバタンと扉を閉めた。
取り残されたネルは頭の中で予定を立てる。
小唄、小梅をポイフルさんに紹介して、次に桔梗達にも紹介。次に事情を説明…いや、これは1番最初にやろう。あとポイフルさんと当日のことを話し合って……
そこまで考えたところで扉が開いた。
「はい。入ってー」
「すまない」
客間へと案内される。
客間に入るとジャージを着た女がお茶が注がれたコップを置いている。斉藤小梅だ。
「久し振り!」
ゆっくりと振り向きネルの姿を確認すると小梅はふわりと微笑んだ。(※小梅は清楚系ではありません)
「ああ。久し振り」
それに、またふわりと微笑みながら返すネル。小唄の時には見られなかった表情だ。ネルは小梅のことを好きなのだ。いや、正確には好き“だった”。今の小梅には出会った当時のようなギラギラと輝くような力強さはない。
これも、生徒会によるものだった。
生徒会はその権威を知らしめるため、ロッテ高校付近のレディースや不良に片っ端から喧嘩を売り、また勝っていた。小梅と小唄も、その被害者だった。
「こんな場合じゃないんじゃないのぉ〜?」
小梅を見つめていたネルを小唄の声が引き戻す。慌てて座り直し、緩んだ表情を引き締める。
「ああ。お前ら、ポイフルさんを知っているだろう?」
「ああ。あのお前が熱く語ってた人ね。ソイツがどうかしたの?」
「先日ポイフルさんと俺の元に果たし状が届いた」
「果たし状!?マジ!?すげぇ!ウケ狙い!?」
「それは…どうだろうな……」
小梅の言葉をはっきりと否定することができなかったらしい。確かに些かいつの時代だよって感じはするけれども。ネルは果たし状が届いた経緯を話す。
「…なるほど。それで、あたし達に手を貸して欲しいと」
「そうだ」
「ふぅーん」
頷くネルをじっとりと睨めつける小梅と小唄。
「それってあたし達にメリットはあんの?」
「小唄!」
「だって相手は生徒会長さんでしょ?勝ち目あんの?」
咎める小梅の声を遮る小唄。確かにロッテ高校の生徒会長を敵に回すのは、些かデメリットが多すぎる。小梅小唄にはこれまでの話を聞く限りメリットが無い。リスクが大き過ぎるのだ。小唄が反対するのも無理はない。小梅も乗り気では無いだろう。それに、彼女らは1回、負けているのだ。
「あるぞ」
「何?」
「1つ、俺を自由にしていい」
「はあ!?」
真顔のネルに顔を赤らめる小梅小唄。小梅は好きな男にいきなり自分を好きにしていいと言われたのだ。真っ赤にならないはずがない(本人は煮るなり焼くなりしろ、という自分はどうなってもいい!的な精神によるものだ)
「そそそっそ、それはどういう!?」
「2つ、生徒会長を倒せば学校の支配権はポイフルさんに移る。しかしポイフルさんはそれを望まないだろう」
真っ赤になって聞き返す小梅を無視してネルは続ける。
「その支配権をお前達に譲ってもいい。もしポイフルさんが手放さなくとも、生徒会の勢力は弱まる」
「…なるほどね」
ネルの言葉に2人の4つの目がギラリと輝いた。その目に射られ、背筋がゾクゾクする。
「その話、乗った」
小梅が、ネルにそう告げた。それと同時に3人の口が弧を描く。
交渉成立だ
「それじゃあ、また土曜日に」
「ああ」
「やるからにはきっちりやらせてもらうよ」
「巻き込まれた歯車達」
「こうして加速は拡大する」