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ロッテ高校不良浪漫奇譚  作者: 藤山悠樹
VS生徒会編
2/11

壱・護るべきもの

はじめまして、葉瀬遊と申します。

初投稿なので至らない部分も多々あるかとは思いますが、見守っていただけると嬉しいです。

 朝5時。

 目覚ましのアラームと背中の痛みで目を覚ます。

 まだ弟達は起きていないようだ。

 六角ろっかくポイフルはのそのそと起き上がると身だしなみを整え、背中の傷の包帯を代え、家族分の朝食と弁当を作っていた。

 父が蒸発&母も絶賛大荒れ中の六角家では家事炊事はほぼ男しかいない家族の長男であるポイフルの担当であった。

 暫くして作り終えると次男であるラズを筆頭に次々と弟達が起きてくる。母はまだ起きてこない。



「ポイ兄今日の朝飯何ー?」


「白飯と目玉焼きと味噌汁。あときゅうりのぬか漬けと納豆だ」



 三男のアリンの質問に簡潔に答える。

 このやり取りも既にポイフルの日常に組み込まれていた。



「やったあ!!ぬか漬け!!」


「えー、あれ臭いじゃんかよー」


「バカ、そこがいいんだろ!?」


「バカって言った方がバカなんだしぃー」


「ああ!?なんだと!?」


「ほらほら、喧嘩しない!ポイ兄が困るだろう?」


「「はあい」」



 不満そうではあるものの、素直にラズの言う事を聞く弟達を見て、自分は弟に恵まれたな、としみじみ思う。クラスメイトから聞く兄弟の話はうるさいやうざいなどのマイナスなものばかりだ。色々おかしいこの家で、その点だけは誇りだと言える。



「母さんの分のご飯は冷蔵庫に入れておくから、起きてきたら言っておいてくれ。

 それじゃあいってくる」


「はぁーい!」


「いってらっしゃいポイ兄!」


「ポイ兄いってらっしゃい!!」


「お前らも学校頑張れよ」


「「はぁーい!」」



 弟達に別れを告げ、家を出る。

 向かう先は学校ではなく、恋人の冷泉れいぜいアルの家だ。

 ポイフルは見た目に反して寂しがり屋で、毎日彼女を校門まで送り迎えしているのだ。

 アルは明治めいじ高校の女生徒で、フォートという弟を持つ。ロシア人と日本人のハーフだ。金髪碧眼で、どちらも美形。そんな彼女が何故ポイフルと付き合うことになったかというと....まあ、この話は長くなるので置いておこう。



 ピンポーン



 ドタドタと足音が聞こえた後、扉が開いた

 出てきたのはアルの弟である冷泉れいぜいフォートだった。



「はーい、ってポイか。ちょっと待ってて、姉ちゃん呼んでくるから」


「おう」



 扉が閉まり、またドタドタと足音が響く。

 少し待つと扉が開いた。



「おはよーポイ。お待たせ。いつも悪いねえ」


「いや、いい」



 ポイフルが黙って歩き出すと慌ててアルが横に並ぶ。



「そうそう!この前友達がねぇ〜」


「はは、くだらねえことしてんな」


「あははっ、それ言ったらおしまいだよ!」


「そう言えばこの前、エクレアっていう奴がな…」


「えー?ホントー?」



 二人はそんなたわいない話をしながらアルの高校へ足をすすめた。






「あ、じゃあここで。また後でね!」


「ああ」



 ここで“〇〇君と離れたくなーい俺もだよー”みたいなリア充爆発しろ的な雰囲気にはならない。もう付き合って2年。慣れた。

 明治高校からポイフルの高校、呂手ろって高校までの道を歩く。

 途中で曲がり角を曲がった。

 向かうは河川敷。橋の下に|(自称)ポイフルの舎弟であるオレオが住んでいるからだ。オレオが|(自称ではあるが)舎弟になったのには、深い理由がある。まあ、それは呂手高校の事情が深く絡んでいるため置いておくことにする。



「起きてるか?」



 橋の下に行き、声をかける。



「んぅ....ポイフル、さん....?はっ、ポイフルさん!?おはようッス!起きてるッスよ!元気ッス!」


「そうか。ならよかった。晩飯は買ってきてやるから、朝飯と昼飯は何とかしてくれ」


「ハイ!わかったッス!うおお、頑張るッスよー!」


「それじゃあ、行ってくる」


「ハイ!ポイフルさんも頑張って下さいねー!」


「おう」



 六角家は裕福ではないので金銭的にも物理的にもオレオを養うことができない。だが、根は優しいポイフルはちょこまかとついてくるオレオを放っておけないのだ。もはや舎弟というより弟に近い。

 橋の下から出て、今度こそ呂手高校まで足をすすめる。



「ポイフルさん、おはようございます」



 落書きだらけの呂手高校の校門でポイフルを待っていたのは学ランを肩で羽織っている男子生徒だ。彼はネル ネルネという中国からの留学生で、この学校で数少ないポイフルの友達|(ネルはそうは思っていないが)であり、右腕だ。ちなみに身長はポイフルより10cm以上も高い。そんな彼を服従させるのは彼の人徳あってこそのものだろう。



「ああ、おはよう」


「シャツが少し乱れています」



 そう言いながらポイフルのシャツと髪を弄る。



「...別にどうでもいいだろう....」


「よくありません」


「そうか」



 世の中に関して驚く程無知なポイフルは、そういうものなのかと思うしかなかった。



「お背中の傷は大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。心配するな」


「心配もします。貴方は俺の大切な人なのですから」


「……そうか」



 ネルのその言葉に顔を背けたポイフル。照れているらしい。ちなみに二人に他意はない。



「今日もオレオの晩御飯を買っていかれるのですか?」


「ああ」


「わかりました。手に入れておきます」


「悪ぃ」


「いえ。貴方の為なら」



 ふわりと微笑むネルを見て、つくづく恵まれていると思う。家では素直な弟達に囲まれ、学校ではいい友人がいる。その上綺麗な恋人もいるし、橋の下にも可愛い|(オレオが聞いたら嫌がるだろうが)弟がいる。

 だが、それだけに別れが惜しい。ポイフルは高校を卒業したら、フランスへ渡ろうと考えているのだ。

 理由は消えた父親を探すため。

 ポイフルにとって父親とは荒れている母を落ち着かせられる唯一の人物なのだ。父親が見つかれば母親も落ち着き、暮らしも楽になるだろう。そうすれば弟達も不自由しないし、母も幸せになれる。オレオも引き取れるかもしれない。そう考えたポイフルは日本中を探し回った。北は択捉島、南は沖ノ鳥島まで幼い頃に撮った写真を頼りに探しまくった。ノーベル空港でやっと手に入れた手がかりは父はフランスへ渡っている可能性があるということだった。何せポイフルの父親が消えたのは現在高校二年生のポイフルが小学生の頃の話なのだ。つまり7、8年も前のこと。記録もあまり残っていなかった。色々|(犯罪まがいのことまで)やって、掴んだ手がかり。逃すわけにはいかない。ポイフルは弟達や友人には秘密にコツコツと貯金をして、旅費を貯めていった。もう準備は整っているのだが、ポイフルがいない間、オレオや弟達の面倒を見ることができない。そこで、ポイフルが高校を卒業すると同時に高校生になるラズに任せることにしたのだ。きっと、自分の弟なら上手くやってくれる。そう信じている。



「どうかしましたか?」



 考え込んでいるポイフルにネルが声をかける。



「いや、何でもない。行こう」


「はい」



 がらんとしている教室につくと、既に来て女子(?)トークを繰り広げている3人の後ろをすぎる。


「あ、ポイフル君。おはよう」


「おっはよー」


「おはよー」


「....おう」


 彼女|(?)らはこの学校で3人だけの不良でない生徒で、眼鏡&マスクが菓侖かろん、眼鏡&前髪がりん、青みがかった黒髪ロン毛が梨子りこだ。

 ちなみに梨子は本名を梨一りいちといい、性別は男。所謂女装男子と言う奴だ。

 ポイフルが一番窓側の、一番後ろの席に座ると、ネルが隣に座る。

 この学校では席など決まっておらず、毎日好きな場所へ座るようになっている。まあ、ほぼ定着しているのだが。







 キーンコーンカーンコーン



 暫くして始業のチャイムが鳴る。しかしまだ教室はがらんとしている。不良校なのだ。遅刻しないで来る生徒の方が珍しい。ちなみにあれから中央の席に座っている日本刀を制服にさしている女子と、巨乳の女子が増えた。



「はーい、やりたくねえがHR始めんぞー」



 生きるのも面倒くさいとでも言いそうな雰囲気で入ってきたのはポイフルのクラスの担任である鬼龍院九十九きりゅういんつくもだ。通称エロメガネで、女教師と生徒からの人気が高い。



「えーっと、めんどくせえから全員出席でいっか」


「ちゃんとやれ【ピー】が」


「女がんな言葉使うんじゃねーよ」


「うるさい【ピー】が。お前の【ピー】【ピー】てやろうか」


「おうおう。怖い怖い」



 今、婦女子にはあるまじき言葉を|(大人の事情で隠したが)次々と発したのが例の巨乳女子こと一色襲いっしきかさねだ。一見すれば清楚系美少女なのだが残念なことに下ネタが大好きなのだ。だがそれさえもプラスの印象に変えてしまう襲。恐ろしい。



「んじゃ、授業始めっかー....めんどくせえから自習な」


「だから!!」


「まあ、落ち着きなよ」



 興奮のあまり立ち上がった襲を諌めたのは、日本刀女子こと倉橋桔梗(くらはし ききょう)だ。彼女は極道の娘で、次期当主と言われている。先程紹介した一色襲は倉橋家に代々仕える暗殺者の一族で襲と言う名も実は代々受け継がれるものであり、本当の名前は桔梗と襲しか知らない。



「ふっ、愚かな。....左目に封印されし魔王よ....!今その封印を解く!!」


「はいはい自習なー」



 今ご覧になった通り桔梗は中二病真っ只中なのだ。既にその時期は過ぎているが、そこは察してあげて欲しい。極道にも色々あるのだ。




 2時限目、3時限目と終わり、4時限目。教室もかなり騒がしくなってきた。そろそろ昼休みである4時限目は騒がしさの大盛期だ。

 まあ、ただ不良どもが仲睦まじく騒いで暴れているだけなのでこの内にこの呂手高校の仕組みを話しておこう。



 呂手高校は先程からしつこく言っている通り、不良校である。不良校というからには生徒の9割以上が不良。その不良には区別、というよりかは区分がある。“部”だ。呂手高校にも部はある。しかしそれはほかの高校のように青春を謳歌するようなものではない

 呂手高校ではまず入学したらそれぞれの部の説明、即ち部長の演説がある。それを聞いてどの部に入るか、どの部長についていくかを決め、入部するのだ。

 呂手高校における部とは、チーム。つまり誰かと喧嘩をする際に共闘する仲間だ。

 まあ、呂手高校には部の数だけ暴走族でいう族があり、入部と同時にそれのどこかに入ることを強いられると考えてもらっていい

 ポイフルも1年生の時は部に入っていた。だが、とある事件で部長に歯向かい、退部に追い込まれたのだ。



 事件は、昨年の春、入学してすぐに起こった。発端は、映画鑑賞部部長である森本郁太(もりもと いくた)の言葉だった。




 ____あー、うぜー。憂さ晴らしにちょっと外行こうぜ____



 呂手高校でも特に問題児が集まる映画鑑賞部では、止める者など誰もいなかった。



 河川敷へと足を進める。




 ____あ、あそことかいいんじゃね?____



 橋の下を指さす。そこへ向かっていく



 ____あれェ?先客ぅ?____



 ____ひっ、あの、誰ですか、____



 ____可愛いねェ。コイツにしようぜ____



 橋の下にいた、というより住んでいた少年を、ポイフル以外の部員で囲み、拳を振り上げた。



 ___ひっ、___



 ___っらあっ!___



 ___やめろ!!!!___



 ___アアン?部長に逆らうワケ?フゥん....やれ___




 襲いかかる部員を躱し、拳と脚をぶち込む

 それを繰り返す。


 いつの間にか、立っているのは少年と、ポイフルだけになった。





 ___....名前は?___



 ___....お、オレオッス。あの、お名前は?___



 ___....ポイフル___



 ___ポイフルさん....!ありがとうございます!!あの、ポイフルさん!___



 ___なんだ?___



 ___あの人達を倒したとき、すごいかっこよかったッス!あの、俺を舎弟にしてくださいッス!___


 ___....無理だ___


 ___お願いッス!俺、ポイフルさんみたいに強くなりたいんス!守りたい、人がいるんス!___


 ___!....わかった。お前、家は?___


 ___....無いッス___


 ___....できるだけ、手伝う___


 ___!でも....!___


 ___弟子を守るのは、師匠の努めだろ___


 ___!ありがとうございます!!___




 こうして、ポイフルは部長に逆らったと退部に追い込まれ、オレオは舎弟となった。



「それでは、これで四時限目の授業を終わります。起立、礼!」



 教師が声を張り上げるのも虚しく、教室は依然としてザワザワしている。ザワザワというより、ギャーギャーだが。



「少し外します」


「わかった」



 ネルが教室から出ていく。恐らくオレオの夕飯を買いに行ったのだろう。

 後で金を渡さなきゃな、と思いつつ昼食の準備をする。絶対にネルは受け取らないだろうが。

 ポイフルがネルの分の昼食の準備をしていると、襲が近付いてきた。



「ポイフル」


「....なんだ」



 襲の呼びかけに対しポイフルがそう尋ねると、襲は耳に顔を寄せ、小声で囁いた。



「お嬢からの伝言だ。今日は早めに帰れ。生徒会の奴らがうろついている。九十九も手を回しているが万が一ということがある」



 襲が廊下を歩く生徒を睨む。腕には生徒会と書かれた腕章。

 ポイフルはこの異端が集まる呂手高校でも異端。生徒を守るのが役割である生徒会が危険視するのは当たり前といっても過言ではなかった。

 生徒会長、フルーチェとフルーチェへの愛を常に暴走させているマーブル、それらを必死に抑える向田シリアル。色んな意味で曲者ぞろいだ。

 生徒会に目をつけられたら大体1週間前後で抹消されるのだが、ポイフルは桔梗達の協力もあり、未だに抹消されずにいるのだ。それが更に危険視を煽っている。


 九十九も手を回している、というのは実は九十九も倉橋家に仕えているのだ。親バカな桔梗の父親が変な虫がつかないようにと護衛の為に学校に手配した教師だ。教員免許は持っていない。おそるべし親バカ親父。だが残念ながら人選を間違えた。桔梗は九十九に対し、淡い恋心を抱いてしまっている。九十九も実は桔梗のことが好きになっちゃったりしている。早くくっつけいじらしい。ロリコンとは言わないであげて欲しい。九十九にもいろいろあるのだ。


 ちなみにお嬢とは桔梗のことである。親友とは言え一応主従関係。流石に主人を呼び捨てにすることは一色家の名が許さなかったらしい。桔梗も厨二心がくすぐられたのだろう。大層ご満悦されている。



「ただいま戻りました」



 去って行った襲と入れ違いにネルが帰ってきた。去っていく襲の後ろ姿を怪訝そうな眼差しで見送る。



「どうかされたのですか?」


「生徒会の見回り日だそうだ」


「またですか…。何度も言っているのに」


「プライドが許さないんだろう。1度危険視した生徒は抹消しないと落ち着かないんだ」


「くだらない…」


「しょうがない」


「……。和你在一起」


「?なんだ?」



 しばらくの沈黙の後、ネルが意を決したように中国語で何かを呟く。中国語がわからないポイフルは首をかしげた。



「いえ。なんでもありません。昼食を摂りましょう」


「?ああ」



 2人は雑談をしつつ、ポイフルは自分で作った弁当を、ネルはコンビニの弁当をそれぞれ突っつき、時折おかずを交換しながら昼休みを過ごした。

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