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ロッテ高校不良浪漫奇譚  作者: 藤山悠樹
VS生徒会編
11/11

玖・マーブル対襲




(何故避けない?)



一抹の不安を覚えながら、襲はマーブルへと木刀を叩き込もうとしていた。もうマーブルは目の前だ。あとは木刀を振り下ろすだけ。しかし、マーブルは一向に動こうとしない。そればかりか、襲に見向きもしない。



(舐めているのか?)



襲がそう訝しげにマーブルの俯いて見えない顔に視線を移したその瞬間、



「らぁぁぁああああ!!!!」



マーブルが勢いよく顔を上げ、奇声をあげた。

その途端、自分の頭上にある木刀に向かって、拳を振り上げる。マーブルの奇声によってか、若干木刀を振り下ろす速度が落ちる。



(コイツ、木刀を壊す気か?)



考えが頭に浮かんだ。しかし、速度がこれ以上落ちることはない。そんな根拠の無い自信が襲を強くしていた。

思えば、いつもそうだった。

根拠の無い自信で、襲、いや、一色光(ひとしき ひかり)は成り立ってきた。

桔梗の護衛役を仰せつかったのも、根拠の無い自信によるものだった。

拳と木刀がぶつかり合う。



バキィ!!!



木が、折れる音がした。

即座に後ろに下がり、襲は真っ二つになった手の中の木刀を見つめた。

次にマーブルを見る。

突き出した拳からナイフが輝いている。

どうやら彼女の獲物は仕込みナイフだったらしい。鉄と木では鉄の方が勝つに決まっている。



「はあっ、はっ、はあっ」



時間が経過していくにつれ、呼吸が荒くなる。

どうして、なぜ、どうなった。

色々なことが頭を駆け巡る。

何かが崩れる音がする。



『一色家にふさわしい男になるんだ!!』



目の前を、明るい色の髪が、通った気がした。



「!!」



次の瞬間、襲はマーブルの目の前にいた。



まだ、負けられない。

まだ、終われない。

勝負はまだ、これからだ。



その思いが襲を突き動かしていた。

大きく上半身を捻り、勢いよく戻す。

物凄い速さでマーブルの顔面に向かって拳が繰り出される。

それをマーブルが間一髪で腕で防ぐ。

鈍い音が響き、当然のようにナイフが飛び出す。



「ぐっ、」


「ぐあ!」



二人が同時に痛みに呻く。

マーブルは、恐らく全身に仕込みナイフを忍ばせている。しかし、それは攻撃されて、初めて作動する武器である。そのため、敵を傷つけるには自分も傷つかねばならないのだ。それだけに、近接戦では最強だ。しかし、大抵の不良は仕込みナイフなんぞは使わない。そんなリスクを冒してまで、最強を掴みとろうとは思わないのだ。それに仕込みナイフは所謂チートであり、あまり実力は関係なく、戦っていると武器に頼っているような感覚に陥る。それらが相成り、不良で仕込みナイフを使う者は、卑怯者と忌み嫌われている。仕込みナイフを使うということは、それなりの覚悟を伴うのだ。



「チィッ!そんなとこからも出てくんのかよ!!」



拳に着いた血を振り払いながら襲が言う。止血をしていないのでそれでも血がドクドクと流れ、足元が赤く染まる。



「生半可な気持ちでフルーチェさんを愛してるわけではない


下がれ。主人に服従しているお前と、フルーチェさんを愛し、自分の意思でついてゆく私とでは違い過ぎる。

お前では、私を倒せない」



一瞬、ほんの一瞬だけ、いつも熱がこもっているマーブルの瞳に、氷のような冷たさが宿り、襲を見下ろした。

それを襲が睨め上げる。



「はっ、」



ふいに、襲の口から笑いがこぼれた。

それと同時に、地獄の業火のような焔がその瞳に宿った。ギラギラと輝き、目の前の獲物を睨め付ける。

服従してる?違い過ぎる?生半可な気持ち?

わらわせんじゃねえ。



「うらぁぁああああ!!!!」



襲がバネのように飛び上がり、マーブルの目の前に飛び出す。それと同時に獣のように叫びながら拳を繰り出す。間一髪でマーブルはそれを腕で受け止める。当然ナイフが飛び出し、拳が血に染まる。更にもう片方の手でまた繰り出すが、またもや腕で防がれ、血がこぼれる。両方の拳にはナイフが突き刺さっている。

襲がそのまま腕を広げる。



「くっ、」



ナイフによって襲の拳と繋がっているマーブルの腕もそれと同じように動き、マーブルも腕を広げた状態になる。



「半端な覚悟で、一色襲の名を継いだわけじゃねえ。

半端な覚悟で、

お嬢の護衛をつとめてるわけじゃねえんだよぉぉおおお!!!」



そう叫ぶと、襲はマーブルの顔面に、頭をぶち当てた。



「ガッ」


「お嬢仕込みの頭突き(桔梗に言わせるとケルベロスの咆哮)、舐めんじゃねえ!!」



そうけたたましく吼え、勝利の雄叫びを上げた。



マーブル対襲、終___勝者、襲

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