死亡フラグ乱立少女と惑わされない青年とオレ
オレには前世の記憶ってやつが存在する。
おい、今誰だ中二病入った痛いやつって言ったの!
確かに前世の"私"は中二病で乙女なオタクだった。
漫画やアニメ、ゲームで格好いい男が出れば身悶えるような、端から見たら痛いJK(もしかしてそっちでは死語?)で。
そんな記憶が10才の時に蘇ったオレは、その日1日布団から出れないほど魘された。
その日は両親と出掛けるはずだったが、オレの容態を気にして延期となる。
魘されはしたが、オレという人格が確立されていた為、 私に呑まれることも、前世に焦がれることもない。
ただ、記憶を思い出し気づいてしまったことがある。
この世界が前世で乙女ゲームだったことだ。
ーー『truth number』。
それがこの乙女ゲームの題名だった。
内容を簡単にまとめると、魔法と武術を学ぶ学園に入った主人公が攻略対象とキャッキャッウフフする感じだ。
え、内容が適当すぎる?
いいじゃんか、今はそこ関係無いから。
でだ、攻略対象というのが5人いて私は4人攻略し、最後の一人を攻略する前に事故で死んでしまった訳だ。
その最後の男の名前が、トロワ・シュヴァリエ。
前世を思い出し、オレは気付いてしまった。
幼馴染みが、先程述べたトロワだということに。
それからのオレの行動は速かった。
まず、トロワとの関係。
幼馴染みと言っても原作に登場しないようなモブが、ちょっと疎遠になったところで構わないだろうと、自分のしたいことを優先にした。
すると、13歳位からトロワの方からこちらを避け始め、今では会えば話すが態々会いに行く程の仲では無くなり。
そしてオレが幼馴染みより優先した魔法の勉強は、自分で想像していたより上達し、今では王宮に仕える筆頭魔術師とまで呼ばれるようになった。
女性諸君には持て囃され、権力者には一目置かれている
ーーなどは無いので、これを読む男性の皆さん。袋叩きなどは考えないように!
有力株である(らしい)オレが女性から声をかけられないのは、オレの特殊な容姿のせいだ。
あ、顔が超絶不細工とかじゃないぞ!オレの顔は普通だ普通!
まぁ、オレの容姿なんてほっといて話を進めるとしよう。
ここだけの話、では無いがオレが勤める王宮には、人が寄り付かない場所がある。
通称、無名宮と呼ばれる離塔である。
城壁のほぼ際にあるそれは、魔が棲むと言われ10年以上前から誰も寄り付かない場所で、ゲームでもヒロインが其処に向かってしまうと突然のBADENDになるという曰く付きだ。
なので今からオレは其所に向かおうと思う!
・・おい、今誰かオレのことバカって言っただろ。
チッチッチッ、嘗めてもらっちゃ困る。
これでも魔物退治は何千としてきたんだ、そうそう負けるつもりはない。
それに、久々に好奇心が擽られた。
この謎についての興味は、実物を見なければ治りそうもない。
そんな訳で休憩時間を使い、無名宮に来たオレは早速探検を始めることにする。
一応王には許可を強dゴホン、頂いてきた。
扉を開け、中を見渡す。
誰も寄り付かない場所の筈が、埃などは溜まっておらず、内部は綺麗だ。
一階は大きな広間のみのようで、二階へと足を進める。
階段の半ば辺りでカタンとある一室から音が聞こえ、オレはその部屋へと向かう。
扉の前に立ち、ノックをした。
「だれ?」
聞こえてきたのは、若い女の声だ。
オレは不思議に思い、
「扉を開けても構いませんか?」
彼女に尋ねた。
すると、中の女は可笑しそうにクスクスと笑いながら応えた。
「ええ、どうぞ」
彼女が笑う意味も解らず、躊躇を感じながらオレは扉を開く。
開ききって見えたのは、
「さあて、珍客よ。貴方は我に愛されたいか?」
ーーこの世のモノとは思えない美貌だった。
愛されたい。彼女の愛が欲しい。オレを見つめて、オレだけを選んで欲しい。愛してくれ。笑顔がみたい。愛して。
オレの脳は汚染され、彼女への愛情で溢れかえった。
微少となった理性が気持ち悪いと叫ぶのに、本能が美しい者に愛されたいと揺るがないのだ。
女は口角をあげ、告げる。
「我は愛そう。貴方が今この場で死体となるのなら」
鈍器で殴られたような衝撃が走った。
愛されたいという本能と、今の衝撃で涌き出た前世の無惨な死が混ざり、吐き気がする。
オレは懐に仕舞っていた小刀を取りだし、自らの太ももに突き立てた。
「ぅぐぁっぁ・・!!」
傷みと共に理性が甦り、オレはもう家族よりも先に逝かないと誓っていたことを思い出す。
小刀を抜き、彼女を見つめはっきりと言う。
「要らない」
虚を衝かれたように少女は瞬きし、そうして笑った。
「あはは、我を見ても死ななかったのは貴方で2人目だ」
「・・2人目?」
「ああ、もう一人は、」
コツンとノックの音が閉めた覚えのない、背後の扉から聞こえた。
開け放たれた扉の処には、整った顔の青年が何時の間にか立っていた。
「只今戻りました、カラー様」
「おかえりシザ。丁度貴方の話をしていたところよ」
そう、彼女は言い、ふと気がついたかのようにオレを見た。
「そうだったわ。シザ、彼の手当てをお願い」
「分かりました。・・これはまた派手にやりましたね」
オレに近いた青年は太ももを見るや、そう告げた。
服の上から簡易ながらも見事な手際で止血された傷は、彼の腕の良さかあまり傷みを感じない。
「後できちんと医者に看てもらってください」
「すみません、手当て有難うございます」
「シザ、彼をそこの椅子へ。後お茶淹れてきて、それと」
彼女は青年の耳許で何かを呟いた。
それに青年は、
「分かりました」
と返しオレの傍に近づいてきた。
青年に手伝ってもらい、ソファーに座らされたオレは正面に座る彼女ーーカラーを見た。
先程の不快感は、もうしなかった。
「自己紹介が遅れたわね。我はカラー、カラー・オーリエンダー」
「オレはナイン・クロスウォーと言います」
「敬語は不要よ。我は別に偉くもないから」
「はぁ・・」
なら何故こんな離塔に?
と、一瞬過ったがよく考えれば当然のことだった。
彼女は隔離されているのだろうから。
そう気づいた時に青年ーーシザが茶器を台にのせ、戻ってきた。
「本日の茶葉はベルガモットを使用しております。それに合わせて茶請けはシフォンケーキにしてみました」
ベルガモット特有の爽やかな香りを吸い込み、思い出す。
前世、花言葉に一時期嵌まっていた。
ベルガモットには野性的、安らぎなど色々あった。
身を焦がす恋も、その1つだ。
はぁ、焦がすどころか、もう少しで灰になるところだったっていうのに。
暗い気分になりながら、何故カラーがあんなことを言ったのか気になった。
「何故カラーはオレに死ねと言ったんだ?」
ケーキを頬張っていたカラーはモグモグと口を動かし飲み込んだ後、ハーブティーを味わってから口を開いた。
「あら、理由なんてそのままよ。我が死体しか愛せない、それだけの事」
「そ、そうか」
ぐふっ、飲んでいたハーブティー、吹き出すかと思った。
ってかこの子、この年でネクロフィリアかよ。
・・よし、話題を変えよう。
「あーっと、シザと言ったかな?君はどうしてカラーを見ても無事だったんだ?」
「名乗り遅れました私、シザンサス・ハイドレンジアと申します。」
「シザンサスだね、宜しく」
「宜しくお願いします。それで私がカラー様を見て、無事だった理由なのですが、」
そこで区切り、考え込むシザンサス。
難しい質問だっただろうか。
考えた末、彼が出した結論は、
「私にとって、カラー様の見た目は普通の人と変わらないように見えるからでしょうか」
だった。
「へ?こんな傾城、傾国の美人が普通?」
オレは呆然とシザンサスの顔を見つめる。
シザンサスははっきりと頷いた。
「なら、シザンサスにとっての美人って?」
「ギブミヨ様は大変美しいかと」
間髪を入れず答えられた名前に、驚きを通り越して笑いそうになった。
ギブミヨという女性は、国一番の醜女として有名だった。
・・こいつ、生粋のブス専だ!!
ガクリと項垂れたオレに追い討ちをかけるかのように、カラーは
「明日から、ナインも此所で働いてもらうことになったわ」
と言った。
「はあ?」
「我付きがシザだけだったから、もう一人欲しいと思ってたところだったの」
本当、丁度いいところに来たわ。王様の許可も貰えたし。
そう笑うカラーにオレは、混乱する頭を抱える外なかった。
どうやら好奇心は猫をも殺したようだ。
(他人の)死亡フラグ乱立(させる美貌の)少女と(生粋のブス専の為)惑わされない青年と(飛んで火に行った[誤字に非ず])オレ。
実は続き物として考えてたりします。